02
マルコが自室へ戻った後、イゾウが帰ってきた。後ろに女を連れて。
「おいおい、イゾウ……その女」
「あァ、街で会ったもんでね」
イゾウと似たような服を着た女はマルコが言っていたような死神みたいな雰囲気など感じるわけもなく。
むしろどこにでもいそうな、町娘だった。
儚げな笑みをその綺麗な顔に張り付かせていなければ。
「ちぃと親父に会わせてくる」
「へ?ちょ、マジ?!お前が?!」
そこらの女より色気のあるイゾウの口紅をひいた口からそんな言葉が聞こえりゃ驚くのも無理はない。
マルコの言っていた女は多分こいつなんだろうが、マルコだけでなくイゾウまで落ちるとは。と思っていたのだが。
「なァに、心配はいらねェさ。こいつはこの船の誰にも危害は加えない。なぁ?」
首を傾けて、話を振られた女はしっかりと頷くと、薄い唇を開いて鈴のような声で答えた。
「私は皆さんを傷つけることはありません。私はただ、彼のそばにいたいだけです」
「彼?」
「わからねェかい?マルコだよマルコ」
首を傾げたサッチに答えたのは女ではなく、イゾウ。その答えにまたサッチは目を瞠る。
「……でも、アンタ、サクラって言ったよな?」
「知ってたのかい?」
「……マルコから聞いてる」
驚いたような声色で言うイゾウに少し躊躇ってから言うと、イゾウは至極楽しそうな表情を浮かべてサクラを連れて食堂を出る。
「アンタ、マルコの命を取りに来たんじゃないのか?」
「いいえ」
何をしに来たのかはわからなかったが女は、サクラは嘘偽りのない瞳でサッチの問いに答えた。
「お前さん、いろんな奴と顔見知りなんだねェ」
「私自身意図してないんですけどね」
「だがいいモンを見せてもらった。これからも期待してるよ」
「……ご期待に添えるよう努力します」
「クックックッ……、まァお前さんの自由だ。ここが親父の部屋さ。あとは自分でどうにかしな」
長く広い廊下の先に、大きな扉があった。その中は白ひげ海賊団船長エドワード・ニューゲートの部屋である。
扉の前に立っただけでも伝わる圧倒的な力、威厳と迫力。
イゾウでさえ、自分に向けられている訳ではない覇気にぶるりと震えるのに、そんな中でも何でもないように微笑みを浮かべているサクラを見て内心ほくそ笑んだ。
ーーー本当にいいモンを拾った。
そしてサクラは船長室へ足を踏み入れる。
しばらくの歓談の後、サクラがモビー・ディック号に乗ることになり、その報せは船内を驚く早さで駆け巡った。