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例えば、こうなることを誰が予想できただろうか。

もしくは彼女自身、それを知っていたからこんな風に怪しまれることを覚悟の上でモビーにやって来たのか。


そんな疑問を親父にも、彼女にぶつけても明確な答えなど返ってくるわけもなく。

ただ彼女は笑って言った。


「咲くそばから散っていく桜は命そのもの。だから人は桜に畏れを抱くのです」


薄紅の瞳に囚われた哀れな鳥は、いつの日か飛べることさえ忘れてしまうのだろうか――――。








桜咲く日に恋が散る
木曜日に捧げたオトギリソウ







それからしばらくの間、マルコはサクラが怪しい行動をしたりしないか見聞色で探ったり見張っていたのだが、そんな素振りも無く、サクラはモビーの生活に何の疑いもなく溶け込んでいった。

「んな、いつまでも警戒心バリバリでいるとサクラちゃんも可哀想だろー?」
「だけどねぃ……」
「お前の気持ちも分かるけどよ。下への影響力はお前が一番分かってんだろ?」
「……よい」

食堂でそんな会話をする2人。

「あ、マルコ隊長!」
「……あぁ、ナターシャかい。どうしたんだい?」
「いえ、どうしたってこともないんです。ただ、マルコ隊長を見つけたのでつい声掛けちゃいました」

明るく笑う彼女は昨日出航した島でモビーに乗ることになったナターシャだ。
戦闘力はもちろん、外見も文句ナシだったため、白ひげの許可をもらい、クルーになった。サクラとも負けず劣らずその持ち前の明るさからかモビーに溶け込んでいる。

自隊に配属されたナターシャは事あるごとにマルコの後をひっついていた。それに悪い気がしないのもナターシャの持つ雰囲気からだろうか。

「ナターシャちゃんも相変わらずマルコにひっついてんなぁ」
「えと、その……」
「サッチ、そうからかうなよぃ」

サッチが苦笑混じりに言うと顔を赤くさせたナターシャ。それをため息をつきつつも庇うマルコ。

ナターシャの様子からしてマルコに想いを寄せているのは一目瞭然だ。

だが、今、と言うよりマルコからしてみれば娘にも等しいナターシャからの想いなど迷惑以外の何物でもなかったし、何より親父第一のマルコは恋愛なんてものに興味はなかった。


「ナターシャ、そろそろ書類を片付けに行くよい」
「はい!」
「頑張れよー」

昼食を終え、そろそろ紙とにらめっこをしないと今日は下手するとオールになりかねない、とマルコは重い腰を上げた。

声を掛けずともナターシャは勝手についてくるのだが。

「マルコ隊長、今日はもう他の隊長たちから書類は回収してありますよ」
「奴らを監禁する手間が省けて助かるよい」
「ふふ、物騒なこと言いますね」
「それくらいしねぇとやらないからねい」

自室とは反対側に足を向けたマルコにナターシャが言うと肩をすくめて自室へと向き直る。

「それにしても随分用意がいいねぃ」
「役に立ちたいですし、楽してもらいたいですから。マルコ隊長には特に」

淡く微笑むナターシャ。女らしいと言えば女らしいその仕草は好いた男に対する女そのものだ。

「なので、まだ先になるんですけど……仕事がひと段落したら一緒にお茶でも飲みませんか?私、紅茶淹れるの得意なんです。ビスタ隊長にも負けませんよ?」
「そうかい。そりゃ楽しみだ」

暗に肯定の返事を返したマルコは花を咲かせたように可愛らしい笑顔を浮かべた妹の頭をポンポンと撫でた。