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―――小さい頃は何に憧れていただろう。
兄さん達は錬金術師としての才能があって、お母さんを喜ばせていた。
ボクは兄さん達の後を付いて回っていただけのような気がする。
ボクには『お母さん』の記憶はほとんど無い。
記憶に残るより前に病気で亡くなったと聞いてる。
そして、あの日。
突然の閃光と悲鳴が聞こえて、向かった先でボクの目に入った光景は。
血まみれの兄と、鎧姿の兄。
慌ててウィンリーのばっちゃんを呼んで。
そして、二人がボクに秘密で人体練成を行ったことを知った。
思えば、ボクは常に二人にとってお荷物だった気がする。
錬金術では知識欲に目を輝かれる二人に質問しまくっては時間を浪費させ、イズミさんについて修行すると言い出した時は置いていかないでと泣きつき。
右腕と左足を失ったエド兄さんは国家錬金術師となり、アル兄さんの体を取り戻す旅に出た。
修行に行く時も旅に出る時も、二人はボクに何も言わなかった。
何も言わず、勝手に決めて勝手に出て行った。
燃えて焼け残った家を見つめるボク。その隣には誰もいなかった。
それから、ボクは二人の後を追うことなく、当ても無くセントラルへ向かった。
そこで出会ったのは錬金術師の中でも殊更変わり者と評される【蒼穹の錬金術師】レネベクト・スターナリーという女性だった。
ボロボロで汚い身なりのボクを見るなり、彼女は『お前を弟子にする』とだけ言うとボクを連れて屋敷へと戻った。
レネベクト・スターナリー。
国家錬金術師の一人で、字は【蒼穹】。
艶めく黒髪、透き通るスカイブルーの瞳。【蒼穹】はそこから来ているのだとすぐに分かった。
レネベクトはボクを風呂に入れ、食事を取らせるとゆっくりと語りだした。
曰く、虫の知らせ。
妙齢に見えるレネベクトはもう弟子をとってもおかしくない歳らしい。
故に錬金術に才能があり、また適正がある人間を探していたが見つからず。
そしてなんとなく散歩に出たところでボクを見つけたらしい。
レネベクトには人間の気の流れとやらを見る力があり、錬金術に適した流れとやらがボクに見えたらしい。
そんなこんなでボクは【蒼穹の錬金術師】レネベクト・スターナリーの弟子となった。