自傷行為の、その事情
「お前、またやったのか」
わたしの手首に無数にはしる赤い直線を苦々しげに見ながら彼は言った。
「気が付いたらナイフ持ってた」
だから、やった。
簡潔に、素直に認めて言うと彼はわたしの腕を引っ張って長い足を進めていく。
半ば引きずるように連れて行かれたのは彼の部屋。
今の彼の状態を表すように荒れた部屋のソファーに座らされて、彼が取り出したのは救急箱。
指先にまで伝っていた傷から流れる液体は点々と道を作っていて、わたしは彼の低い体温を感じながらぼんやりと「後で掃除しなきゃなぁ」なんて考えていた。
慣れた手付きで包帯を巻く彼は下を向いていたからちゃんと顔は見えないけれど酷く悲しそうな表情を浮かべていたと思う。
わたしは何か彼を悲しませるようなことをしただろうか。
不思議に思いながら黙っていると、いつの間にか手当ては終わっていて彼は真っ直ぐわたしの目を見て言った。
「お前の体は、命は誰のもんだ」
「ハートの海賊団船長トラファルガー・ロー」
「なら俺の許可無く傷なんかつけるんじゃねぇ」
「………」
「返事はどうした」
「……アイアイ」
彼が言いたかったのはそういうことか。
俺の物なのに傷をつけて使い物にならなくなったらどうすると。
でもわたしはきっとやめられない。
何度でも何度でも繰り返す。
だってそうすれば、
前しか見ない貴方はわたしを見てくれるでしょう?
だってそれしか方法が見つからない
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