act.07
青春学園
おじさんが迎えに来てくれた次の日にひいた風邪は、精神が疲弊していたためか長引いてしまった。
その風邪がようやく治ると、相談していたオカルト系の掲示板でもらった帰れる方法をなるべく試してみた。
全て試してみても、帰れることも、知り合いと連絡がとれることもなかった。
それでも『同じ時間に同じ場所にいればいい』という書き込みだけは忘れられず、実行できる日はそのようにしていたが、やっぱり帰れることはなかった。
そして、そうこうしているうちに入学式の日がきてしまった。
南次郎が説明しなかったことについても問いつめたいが、自身が決死の思いで倫子さんにすべてを打ち明けようとすれば毎度なにかしらの妨害が入ってきたことになにかしらの作為を感じずにはいられない。
電話や回覧板などの人為的なもの以外にも、天候などの自然までもが妨害してきたので流石にお手上げ状態である。
その過程で、越前家にはリョーマの従姉越前菜々子≠ェ新しく居候として暮らすことになったのだった。
チュン チチチ ……
鳥のさえずりが外から聞こえてくる。
この日は遅刻しないようにと倫子さんが7時ピッタリに起こしにきてくれた。
起こしにきてくれたが、入学の際に嘘がバレてしまうだろうことを考えるとこちらは眠れる訳もなく、余っているからと置いてもらったベッドの中で一晩悶々と寝転がっていただけである。
とりあえず体裁だけは整えるため、新しくおろされた青春学園中等部の制服を着る。
そして顔を洗い、用意してくれた朝食を食べ、用意した上靴などの備品をつめた学校カバンを抱えて家を出る。
いそいそと一度だけ案内された学校の道順から外れて歩きだそうとすると、うしろから声をかけられた。
「どこ行こうとしてるの?学校こっちなんだけど」
「あれ?そうだっけ〜……」
振り向くと越前リョーマが鋭い視線を投げかけてくる。
実は朝からそれとなくリョーマにマークされており、このままだと学校に行かない作戦が失敗しそうだった。
まるで会社からクビにされたのを隠すように毎朝外にでる元サラリーマンのような苦肉の策すら実行に移せないのなら逃げるしかない。
前に歩くリョーマの気が緩んだであろう瞬間、反対方向へ走り出そうとした。
「だからこっちだって」
走り出そうとしたが、瞬発力に負けて腕を掴まれてしまう。
少しだけ下り坂になった道もあり、小さいリョーマに引っ張られる形で歩きだす。
なにが彼をここまでさせるのか分からないが、身長の割に力が強く、この手は振りほどけないことを確信した。
これはもう逃げられない。
あまりの強引さから脳裏に倫子さんの顔が浮かぶほど、二人は親子なんだと今更思い知らされた。
こうして連行されて着いた青春学園中等部の校門前。
腕を掴まれて歩いていることに対する周りの視線もさることながら、自分がこの学園の門をくぐっていいのかと思うと足が急激に重くなった。
だが引っ張られていることもあり、思ったよりアッサリと校門を通ると、人だかりのできていた掲示板前に着く。
クラス分けなんてどうせ関係ないだろうと視線を地面に落としていたら声をかけられた。
「アンタも同じクラスだって」
「えっ?」
「1年2組」
言われた通り1年2組の欄を見ると、自分の名前がたしかに書いてあった。
どうして名前が書いてあるのか。
学校側が私と同姓同名の存在を認識・容認していることはたしかである。
文字列では入学できてしまっていることに対しては開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けたが、謎が残った。
越前家で居候してココに入学するはずだった元々の子≠フことはどうなっているのか。
名前も教えられていないその子の名前を探せるはずもなく、校内へ連行された。
もしかすると同姓同名の子が机についているのではと心臓を騒がしくしながら、長い廊下を歩く。
振り分けられた1年2組の教室内に着くなり、腕を引っ張っていた小さな手から解放される。
「疲れた」と掴んでいた方の肩をぐるぐると回すリョーマを眺めていると、じとりとした呆れの混じった目で見返される。
「もしかしてアンタ、出席番号も覚えてない?」
「いや、流石に覚えてるけど……」
「そう。ならいいけど」
ここまで連れてこられた以上、とりあえずリョーマと同じようにクラス表で振り分けられた番号の席を探そう。
教室の机にはそれぞれ数字のテープが張られており、割り振られた出席番号と同じ席を探す。
怖くて机の番号だけを見るように目線を下にして歩く。
だんだんと苗字 名前≠ノ割り振られた番号になる。
目当ての番号が目に入り、生唾を飲みこみながら顔を上げる。
その席には誰も座っていなかった。
ドッと全身が疲れたが、教室の黒板にも貼られていた出席番号とも照らし合わせる。
氏名と番号に間違いはないようだ。
机の横にカバンがかけられていないことも確認して、恐る恐る席に着く。
席についてすることも特にないので不審がられない程度に教室内を眺めると、堀尾の顔を見つけた。
彼は小学校からの知り合い同士だろうグループと喋っている。
周りが目を輝かして喋っている初々しい様子に対し、自らの後ろめたい気持ちがふつふつとこみ上げると眉間が痛くなった。
それからしばらくすると教室に入ってきた担任の教師からの自己紹介と、これからの説明を受ける。
今のところ苗字 名前≠ヘ自分一人らしいことは確信できた。
その後、上級生から手作りの花の名札を付けてもらって入学式入場の列を歩く時、絶望に似た気持ちが自然と口からこぼれた。
「入学とか、嘘でしょ……」
始まった入学式。
祝電や校長先生の長いスピーチが終わると、声だけで手塚国光≠ニわかる男子生徒が在校生代表としてスピーチをしていた。
そしてつつがなく入学式が終わり、新入生の退場がはじまる。
名札をつけてくれた上級生もだが、近くをよぎる時の上級生たちが私を見るなり目を丸くする様子が見受けられた。
教室へ戻ると担任である堂先生から時間割などの配布物を受けとると、順番に自己紹介をする流れになる。
最初は初々しい自己紹介風景だったが、リョーマは簡潔に名前を名乗るだけで終わり、固まった空気をどうにかしようと堂先生が苦笑いをして次の人へ自己紹介を促す。
次の人たちは動揺しながらも自己紹介する風景に戻っていくが、ついに自分の番が回ってきてしまう。
自己紹介の時に起立することもあり、単純に考えていなかったこともあるが教室中の視線を一身に浴びて頭が真っ白になった。
「苗字名前です。以上です」
そのまま着席すると堂先生がまた苦笑いを浮かべて次を促す。
そしてクラス全員の自己紹介が終わると、先生からのお祝いと激励の言葉を受けて解散することになる。
教師が「また明日」と言い残し教室を出て行くと、周りはワッと近くの席の人や気になる人に声をかけたりしていく。
私は周りとは違った出で立ちや、さきほどの自己紹介も含めると相当近寄りがたいだろうことは分かっていたので一目散に教室から出ていった。
しかし、校舎から出た途端ばったりと倫子さんに会ってしまい、校門前で記念写真を撮られてしまった。
「アイツを入学式に必ず行かせるなら全部買ってやる」
「は?なんで?」
「できなかったら小遣いから天引きな」
「は??」
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