ALEXANDER
「ホールの締めはもう終わっているぞ」
カウンターでグラスを無心で拭いているとアレクに声を掛けられる。
顔を上げてホールを見渡してみると、ホールの締めは終わっているようだった。
だが、ミモザ達の姿が見当たらない。
いつも締めが終わった後はミモザのお小言という反省会が待っているのにどうしたのだろう。
「ミモザ達はとっくに帰っている」
質問しようとしていたことを先回りして答えられる。
時計を確認してみれば、いつも締めが終わっている時間から一時間は既に経っていた。
もうそんなに経っていたのか、と磨いていたグラスたちを片付ける。
片付ける間もその場で腕を組んでこちらを眺めるアレクが不自然で、なにか用事があるのか聞いてみた。
「今日は俺が鍵を締める日だ」
アレクは持っていた鍵の束を持ち上げて見せつける。
きっと彼のことだ、さっきまで待っていたが流石に痺れを切らして声をかけたのだろう。
確かにバックヤードのパソコンで記帳している真後ろで着替えられるのは気まずいに決まっている。
申し訳ない気持ちでバックヤードへとそそくさと退散した。
急いで着替えを終わらせ、ホールを覗いてみる。
手持無沙汰だったのかアレクはカウンターに立ってシェイカーを振っていた。
静かながらも力強く混ぜ合わされる小気味いい音がホールに響く。
ああ、いつもながら綺麗なフォームだ。
そう見惚れていると紅い瞳と視線がぶつかった。
紅い瞳からこっちに来いと目線を送られ、促されるまま正面のカウンター席に座る。
その間もアレクはシェイカーを振っており、しばらくの間シャカシャカと規則正しい音だけが響いた。
そしてシェイクが終わったのか、シェイカーの中身をグラスへ注ぐとカカオの香りが辺りに広がる。
チョコレート系のカクテルだろうか。
何を作っていたのか見当をつける前に、注ぎ終わったショートグラスが滑るように目の前に出された。
「これでも飲め」
彼の作るカクテルは最高だ。
カクテル名の見当は投げ出し、嬉々としてご相伴にあずかることにした。
口に含むと生クリームのまろやかな口当たりと、カカオの甘さが身に染みる。
少しだけブランデーの風味もあり、高級なココアを飲んでいる気分だ。
頬が緩んでいくのをそのままに、少しずつ味わいながら飲んでいく。
口休めにどうしてこれを出したのか聞くと、アレクは使い終わった道具を片付けながら答えた。
「疲れている時は甘いものがいいんだろう?」
隠していたつもりの疲労は彼に悟られていたようだ。
いや、今店にいない彼らにもきっとバレていたんだろう。
気を遣わせてしまったことと、自身の未熟さが恥ずかしくなって飲み下す速度を早める。
アルコールか気恥ずかしさかその両方か、真っ赤になっているのが分かるほど頬は熱を放出していた。
もう片付けが終わったのか、壁にもたれかかってこちらを眺めていたアレクがふと喋り出す。
「お前はその酒にまつわる話を知っているか?」
知らないと首を振るとアレクは顔色ひとつ変えずにそうか、と淡々とこたえる。
するとカウンターから少し身を乗り出し、顔を近付けてくる。
近くで見るととても端正な顔だと再確信してしまうとともに、突然のことに呼吸も忘れてしまう。
それを知ってかアレクは距離をつめるのをやめず、私は恥ずかしさの限界で顔を反らし目をつぶった。
目をつぶれば布が擦れる音と呼吸で、アレクとの距離を肌でより一層感じてしまう。
流石に近すぎてあらぬ方向の想像をし、身体が強張った。
「女が
ソレを飲んで
酒(に依存するようになる話だ」
アゴの輪郭をなぞるように指で撫でられ、耳元で吐息とともに低く囁かれた。
突然の行動に口に残っていたカクテルが気管に入ってしまい咳き込むと、アレクはしてやったりというような笑みを浮かべてクツクツと笑っていた。
ALEXANDER
カクプリが終了しちゃったので供養。
『Shaking Night!!〜禁断のクインテット〜』いい曲なので聞いてください……
191002
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