籠 り   main diary mail reply  
act.21
大会

都大会1日目の朝。
2人分のお弁当の準備も済み、余った時間でカルピンと居間で戯れていた。
もうすぐ出発したほうがよくなってきた時間帯なのに、二階のリョーマが起きたような気配を感じない。
そういえば彼は大会の当日に『産まれそうな妊婦さんを病院へ連れて行った』という、とても嘘くさい理由で遅刻したことを思いだす。
そして、地区大会は桃城と一緒に会場まで行ったはずなのに都大会では送迎してくれないことに疑問をもつ。
昨日2人でお寺のコートで打ち合いをしていたにも関わらず、だ。

女子とは違った男子の付き合い方に肩をすくめる。
このままリョーマを置いていってもいいが居候がスミレにバレている以上、あとでどんな飛び火がくるか分かったものではない。
重いため息をひとつこぼし、腰を上げた。

二階に上がり、ゆっくりとリョーマの部屋のドアを開ける。
部屋の中にはベッドの上で気持ちよさそうに寝ているリョーマがいた。
ヘッドボードに置かれている目覚まし時計はアラーム機能を終えたのか、はたまたつけ忘れたのか、チクタクと静かに秒針を動かしている。
とりあえず、ドアの隙間から顔を出している状態で声をかける。


「おーい、起きろー」
「ん…………」
「リョーマく〜ん……リョーマー」
「ん〜」


何度呼んでも返ってくるのは相槌のような寝言だけ。
簡単に目覚めなさそうな雰囲気を感じとり、ため息をはきながら部屋の中へと入る。
ベッド横に立つと、たまたま持ってきていたスマホでカメラアプリを起動する。
嫌がらせの意味も込めてフラッシュありの連写モードにして、目の前の寝顔へと照準を合わせる。

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

瞼の裏にも光が届いたのか、標的の目元が歪む。
高めのシャッター音にも不快を感じたのか、布団の中にもぐりながら体を丸まらせた。
これでもまだ寝続けようとする態度に呆れながら、布団の中にも聞こえるように大きな声で話しかける。


「起きないと寝顔の写真、先輩たちとかにバラまくよ!」
「……やめて……」
「おはよう。時間ないから10分で支度してね」


そう言うなり、のそりと布団の中から不満げな顔がでてくる。
それでもまだ覚醒しきっていないらしく「ムニュムニュ」となにやら口を動かしていた。
うなずく様子もなく目は閉じたままではあるが、おもむろにベッドから出ようとするのを確認し、部屋をあとにした。
その後、10分よりも遅く降りてきた半分寝ているリョーマを連れて都大会の会場へと向かうのには骨が折れた。
わけは違うが、小さい子供の朝支度の世話に手を焼く親の気持ちが少しわかった気がした。




ミクスドは今年からの部門なのでシードがない。
参加すらしないところもある中、ミクスドのトーナメント表は思った以上にでかかった。
トーナメント表には原作で目にしたこともある学校名がチラホラと散見され、ミクスドの会場ですらも人で賑わっていた。
見たことのない学校があることも、その学校に通っている人がいることも、実際の目で見ることで認識させられる。
当たり前のことではあるのに、ユニフォームの異なった色たちを目にするまでは『みんな違う』ということに実感をもっていなかったのだ。

地区大会とは違う。これが都大会。

試合はありがたいことに補欠の出番がくることはなく、順調にトーナメントを進んでいった。
そして次はネームドである山吹中との対戦となる。
今回はオーダーでミクスド2として指名されており、正規の形式では初めての試合になった。
そんな試合でのパートナーは河村隆。
青学のレギュラーである河村をここに据えるということは、オーダーとしてはここで確実に勝ちをとりにきているのだろう。
オーダーの意図がわかる以上、それを聞いた時はプレッシャーで冷や汗が全身にドッとわいた。


「苗字さん、よろしくね」
「河村先輩、こちらこそよろしくお願いします」
「よければだけど、俺たちの番がくるまで一緒にウォーミングアップしない?」
「是非お願いします」
「お互いがんばろうね」


河村は緊張している自分のことを察してなのか、いつも以上に気を遣われている気がした。
そして試合前の集団挨拶の際、目の前にきている対戦相手だろうペアを確認する。
サングラスをかけている室町くんと、メガネをかけたローツインテールの女子。
原作では試合の描写が一切なかった室町くんと、全く知らない人の組み合わせである。
相手がどちらも未知数で、河村のパワープレイ以外何がでてくるかわからない試合になりそうだ。
そうしてなんの気なしにチラリと女子の方を見ると、彼女はキッとこちらを見返して淡々とした調子で声をかけてくる。


「あなたが苗字名前さんですね。今回が初めての正式な公式戦だそうですけど、お互い良い試合にしましょう」
「お手柔らかにお願いします……」


及び腰気味にそう返すと「フン」と鼻を鳴らされた。
挨拶の解散後、乾に聞いてみると彼女は吉川美咲≠ニいう名前らしい。
自分を認知していることから予測はなんとなくできていたが、データテニスを得意としているそうだ。
奇しくも試合データが地区大会のイレギュラーである一戦だけの、彼女のメタ≠フような存在である自分で狙い撃ちしたということだ。
それを考えると確かに不機嫌にもなる。
吉川さんの心境に少し心を馳せながら河村とウォーミングアップをこなしていく。
体が十分にあたたまった頃、ミクスド3にオーダーされていた小鷹さんと乾のペアが勝利をとってきた。

次は自分たちの番だ。
緊張しながらコートに入ると、ラケットを持った河村の雄叫びが至近距離で響く。
うっかり忘れていた彼の習性に一瞬頭が真っ白になったが、そのあとはかえって落ち着くことができた。

こうしてはじまった試合は思った以上に淡々とすすむ。
プランというには拙いが、試合は河村が得意とするパワーを前面的に押しだしていくことにしていた。
自分がすることといえば彼のプレイ中にできる隙をカバーすることが主で、最初は不足の時もあったが、段々とそれにも慣れて失点も減っていった。
河村も波動球≠無理に繰りだすこともなく、点がとれていく。
データがあってもパワーで押しだすような試合展開となり、結果、6−2で勝つことができた。


「ゲームセットウォンバイ!青学!」
「「「ありがとうございました!」」」


ミクスドの本日分の試合が終わり、青学は解散となった。
しかし先だってスミレに帰るなと指示されていたので、まだ試合をやっている男子の会場を眺めることにする。

その中でも人だかりができているコートをのぞく。
そこには見慣れた配色しかなく、不動峰と氷帝の試合ということがわかった。
これが原作にある場面だと理解するも、なにやら不動峰のメンツの顔には疲労の色が浮かんでいた。
試合ボードの結果を見てみると3−0ではあるが、個々のゲームでは接戦からの勝ちとなっているようである。
圧勝だったはずの原作の流れと違ったソレに『またか』と不安に似た感情がわく。


『不動峰中3勝0敗により、準決勝進出!!』


結果のアナウンスが流れると周りにいた氷帝部員たちからブーイングがわきあがる。
マナーがあまりいいとは言えない彼らの行動には不快感を覚え、眉間が寄ってしまう。
そんな中、コート上で最後の挨拶が終わり人が散らばっていく。
なんとなくその様子を眺めていると人と人との合間をぬって、きびすを返す跡部と目が合った。
一瞬だけだったが、いつも余裕があるはずの彼の眉間にシワが寄っているように見えた。
帰りのバスの中でそのことをぼんやりと考えていたら、寝ている海堂・桃城・リョーマを起こせず最寄りのバス停を乗り過ごしてしまった。





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