籠 り   main diary mail reply  
目の前に立つ人
 スマホを使って動画配信サイトを閲覧している時、オススメ欄にこんなものが表示される。
 【この動画を見ないでください 都市伝説解体センター】
 真夜中ということもあって興味本位でその動画をタップした。ホラー的なモノによくあるような演出がはじまったかと思うと、『この動画を見たあなたは呪われた』などと流れる。
 チープなそれにため息を漏らしたところ、続きがあったようで場面が転換し、暗い部屋の中で浮いているように見える奇っ怪な仮面をつけた人物が映しだされる。その人物は"都市伝説解体センター"のセンター長、廻屋めぐりやあゆむと言うらしい。
 そうしてその人物は『呪いの動画の中に呪いを解く言葉が隠されている』とのたまう。続けて、それがわかれば『0800-555ゴーゴーゴー-5131カイタイ』まで電話をかけて教えろ、と。廻屋という人物は、どこか挑発めいたセリフを残して動画を締めくくっていた。

 真夜中に眠れず暇を持て余していた自分はとある手段を使い、この動画に隠されたものを探し当てる。夜中のテンションということもあり、フリーダイヤルだった都市伝説解体センターの番号に電話をかけてみた。つい、その場のノリで。
 すぐにプルルルという電子音が流れ、書かれていた番号が本当に生きていたことに驚きを感じてしまう。よくある手の込んだ悪戯動画だと思っていたから尚更だ。
 しかし、時分は真夜中だというのにソレはすぐに繋がった。

『はい。都市伝説解体センターの廻屋です。お電話、お待ちしてました。早速ですが、隠された言葉を教えてください』

 動画でも聞いた、落ち着いた声がスマホ越しに聞こえる。
 自分はそのまま動画の中に隠されていた言葉を廻屋に伝えると、スピーカーの向こうで拍手をする乾いた音が響く。

『Great! よく気が付きましたね。これで、あなたにかけられた呪いは解けたはず。……しかし、この呪いを仕掛けたのは一体何者なのでしょうか?』

 呪いごっこだけでも煩わしいのに相手の仰々しい態度と合わさってしまい、思わずため息が漏れそうになるのを留める。
 問われた呪いの仕掛け人。動画の中にそれらしいヒントはなかったが、思い当たる人物の名前を告げる。すると、スマホの向こうからククッとくぐもった笑い声が漏れ聞こえてくる。

『Brilliant! よくぞ真相に辿り着きましたね! おめでとうございます』

 廻屋の癖なのだろう、賞賛を示す勢いのある英語の形容詞が耳をすり抜けていく。声は先ほど聞いたものよりも上ずっており、少し興奮しているであろうことがなんとなく分かった。

『ちなみに、なぜ分かったかお伺いしても?』

 包み隠すものでもないので『そもそも動画の投稿主だから』と伝えると、一瞬、息を呑むような音が聞こえたかと思えば音割れになるほどの声量でまたもや英語の形容詞が我が鼓膜をつんざく。

『Fabulous! その現実的かつ穿った見方、私、とても大好きです!』

 完全に興奮させてしまったようだ。動画に手の込んだ仕掛けを施した本人からしたらそれはそれは喜ばしいことなのだろう。
 こちらの返答も待たずに廻屋は矢継ぎ早にペラペラと喋っていく。動画では聡明そうに聞こえていた声が弾んでいるのが容易に分かる。

『あなたのような人とは是非会って話だけでもしたいですね。もしあなたがよろしければ、ですが。ああでもすぐにとは言いません日程を合わせてからにでもしましょうか。直近はいつが空いてますかね』

 グイグイとくる廻屋の勢いをのらりくらりとかわしながら電話をなんとか終わらせた。
 だが電話のすぐ後に廻屋から、いつ会えるかの旨を聞くSMSが送られてきた。フリーダイヤルとはいえ怪しいところに電話を疑いもなくかけた自分も悪いのだが、これは職権濫用というものではなかろうか。変な人に目を付けられてしまったようである。SMSの文面を眺めながらため息が漏れた。
 結局、SMSでの度重なる催促に根負けして会うことになった。
 廻屋が会おうと指定してきたのは奥まった場所に建っている、床に鉄板が敷き詰められた、さながら工事現場のような無骨な建物の中だった。
 その無機質な部屋の中、なんとか置かれたであろうソファと執務机だけが人がココを使用していることを示していた。

「いやあ、お会いできて嬉しいです」

 廻屋────彼は車椅子に乗りながら迎えてくれた。
 動画では暗くて気づかなかったが、彼はデコルテが大きく露出しているオーバーサイズのシャツを着ており、それで隠してはいるだろうが男性としては小柄であり華奢な身体つきをしていた。
 センター分けの髪は横に撫でつけており、長い前髪が一房だけチロリと垂らされている。整った相貌をしているが、その鋭い瞳の奥にはどこか厭世的な光が灯っているように見えた。
 少し、昨今の社会に疲れた自分に似ているのかもしれない。なんて、勝手に親近感を抱いてしまうようなそんな擦れた目をしていた。

「元々あの動画は公開した際、もう少しヒントを入れた方がいいか迷っていたんですよ。そしたらあなたから電話がかかってきて驚いてしまいました。完璧とも言える一番乗り、本当におめでとうございます」

 彼はソファに座った自分の横であの動画の裏話を話してくれていた。対面ではなく隣で、だ。どこにでも配置できてしまう車椅子とは便利なものだ。
 とりあえずあの動画を見つけたのはたまたまで電話をしたのは気まぐれだと返すと、彼はこちらを見たままニヤリと口で弧を描いて目を細める。

「たまたまで気まぐれ、ですか。それではそれに感謝しないとですね」

 思ったよりも筋張っていない手が自分の手の上に重なり、握られる。やはり彼の距離感は少しバグっている。顔も心なしか近い。
 このままだとキスでもされそうな雰囲気だったので、彼がセンター長を務める都市伝説解体センターのことを聞いてみると、相槌をうつのも困難なほどのスピードで都市伝説や怪異などの話を延々と聞かされた。その話をしている間の彼はまさに活き活きとしていた。
 そして1時間くらいで説明し終えただろう彼は、こちらとは反比例してスッキリとした顔である。これだけで彼の声や活き活きとした顔が目に焼き付いてしまったほどだ。
 彼は喋り終えて満足げにふう、と一息つくと「そろそろ時間ですかね」とつぶやく。

「今日は楽しかったです。名残惜しいですが、またあなたにお会いできる日を楽しみにしています。それでは、またいつか」

 思い返さなくても廻屋との出会いは強烈なものだった。一ヶ月以上経っても、ふとした時に思い出すほどである。
 それはスマホに強制的に表示されている 、SAMEZIMAの管理人のライブ配信をただ見守るしかなかった時でさえ思い出した。彼もこの配信をどこかで見ているのだろうか、と。
 衝撃的な動画が流されて配信が終わった直後、なにかをアップロードする画面がスマホに表示される。100%になったかと思えば、SNSに自分や他の人の氏名住所などの個人情報が次々と投稿されていっていた。
 投稿された自身の個人情報の対処をなんとかしようとしていると、誰とも知れない番号から『迎えに行きます』とだけのSMSが届いた。その時はあまりそのことを気にしていなかった。
 世間中がSAMEZIMAによって混乱しているであろう最中、とある人物が空から降りてきたかのような軽やかな足どりで目の前に現れた。その世間離れした雰囲気に、この人があの意味深なSMSを送ってきた主なのだと直感した。

「さあ、一緒に行きましょう」

 その足で立っているその人はそう言うと、聞き慣れた声色で自分の名前を優しく呼ぶ。
 そして何事もないかのような清々しい笑顔でこちらに手を差し出してきた。その目つきはあの時見たものととても似ている。
 自分はこれまでに感じた、散りばめられていた違和感たちから導き出される結果を嚥下し、これから起こるであろう様々な事を予感しながらもその手を取らずにはいられなかった。
 手を取るなりその人はほくそ笑むと、こちらの手の甲にキスを落として手を繋いで歩みだす。
 自分はその人に手を引かれるがまま、一歩、また一歩と、堕ちるような明日へと歩みだすのだった。



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