籠 り   main diary mail reply  
#02 見えない空
side:主人公1


冷たい、寒い。
それに下が有り得ないほど固い。
違和感と不快感に仕方なく重い上半身を起こす。
それから眠い目を擦って瞼を開けるも、辺りは暗闇で情報が得られない。
停電かなにかかと思いながら手で地面を探って前に進んでいくと、指先がなにかにぶつかった。
硬い感触に驚いて引っ込めた手をそれがあった方向へゆっくりと伸ばす。
触れてみるとそれは周りの空気に比例した冷気を帯び、棒状になっている。


「鉄?」


引き寄せようとするとガシャンと大きい音が響く。
なにかに固定されているようだ。
音からしてまさかとは思いつつ近付いて目を凝らしてみれば、縦に平行してある幾本の鉄棒に鎖と錠が厳重に掛けられていた。
それだけで分かる。コレはドラマや漫画でよく見るあれ。


「なんで牢屋……」


私は捕まるほどの悪いことをしていない。
だが、身に覚えがなくともこのただただ冷たく暗い牢屋に閉じ込められているのだ。
柵を押してみても引いてみても金属同士のぶつかる音が鼓膜にうるさく響くだけ。


「誰か開けてよ……!」


今度は力いっぱい柵を前後に揺らして大声をあげる。
それでも牢も周囲もすんともせず、ただ静寂と暗闇が変わらず空間を包みこんでいた。
あまりの無情さに“もしかしたらこのままここで死ぬのではないか”という考えが脳裏をよぎると、涙が溢れた。
パジャマの袖で拭っても溢れだした恐怖が止まることはなく、袖は水分をすぐに吸収できないほど濡れてしまった。
いつの間にかしゃくり上げてもいたため息が苦しくなり、ボクは子供みたいに丸まって膝を抱いた。


「そこにいるのは誰ですか」


男性の低い声。
降ってきた声に顔をあげれば、靴の音が牢屋に反響しはじめる。
音が段々近くなってくると、暗くて見えなかった地面の岩がうっすらと見えはじめた。
明かり──否、光だ。

恐る恐る柵に顔を近付けて音のする方向を見ると、ランプを持った眼鏡の男性がこちらに歩いて来ていた。
男はボクを捕捉したのか、顔とランプをこちらに向ける。
急なランプのまぶしさにボクは目を細めたが、男が牢屋の中にいたボクを見てその赤い瞳を丸くさせたのが見えた。
そして、ボクも目の前の人物を見て目を見開く。

死霊使いジェイド

ゲームで見かけたその人の姿そのままだったから。
唖然と眺めている内に男性は牢屋の前まで来て、掌を錠にかざす。
するとそこから朱い光が放たれ、頑丈だった鍵と鎖は崩れるように地面に落ちた。
間もなく冷たい扉が開かれ、目の前に大きな手が差し出される。
突然の出来事にためらいながらも、その手を掴んだ。


「早くここから出て下さい」
「ありがとう、ございます……」
「気休めでしかありませんがこのブランケットを……少しは温かいでしょう」


腕にかけていたブランケットが肩にかけられ、支えられるような形で牢屋の外へ出る。
服越しながらもブランケットは温かく、パジャマしか着ていなかった身にはとてもありがたかった。
ずり落ちそうになるブランケットを引き寄せつつ、隣の男を見上げる。
眼鏡に赤い瞳に白い肌。
テレビの向こうから見たジェイド・カーティスそのままである。
引き込まれそうな不思議な感覚に視線を逸らせないでいると、一心に向けられる視線に気づいたのか優しく微笑まれた。


「あそこは随分前から使われなくなっていた地下牢なんですよ」


誘導されるままに歩いているが、気が付けば肌寒い牢屋からは出ており、足元は岩からふかふかの赤い絨毯に変わっていた。
あんなにまぶしかったランプも、明るい室内に出たからか灯火は消えていた。
室内の内装からすると、ここはお城のようだ。
ということはここはマルクトの───


「なのに何故あなたはあの中にいたんですか?……もしやそういったご嗜好が?」
「ありません断じて違います」


考えていたことを遮るように、ジェイドがわざとらしい素振りで謂われもない性癖を付与しようとしてきた。
そんな男に渋い感情を覚えながら一息に否定すると、男は冗談ですとクツクツと意地悪気に笑う。
そしてボクの身体を包み込むように、腕で背中を優しく押してきた。


「……それにしても」
「はい?」
「ボク、なんでまた牢屋に入れられてるんですか?」


言葉の通り、ボクは笑顔を絶やさないままのジェイドに牢屋へスマートに入れられていた。
人生初のエスコートだったのに、こんな最悪なエスコートはこれ以外ないだろうと虚しさを覚える。
そんな感情を知ってか知らずか、男は満面の笑みを浮かべて答えた。


「まあ先ほどの冷たい牢屋よりはマシじゃあないですか?温かいですし?」


確かに言われた通り、さっきいた牢屋とは違い明るいし備え付けのベッドもある。
空気も断然冷たくない。むしろ暖かい。
それでも不満が拭えず、視線でジェイドに訴える。
視線の先の男は笑っていたが、レンズの向こうにある瞳が一瞬で温度をなくした。
瞬間、背筋が凍る。
今までの優しい雰囲気とはうってかわり、鋭い敵意を感じたからだ。
こちらの視線が黙ったのを確認した男は眼鏡をかけ直しつつ、無機質な声で言い放つ。


「それでははっきりと申し上げますが、あなた、不審人物の自覚はおありで?」
「そ、れは……」
「いきなり城内に現れた謎の人物を手放しで歓迎する能天気な国なんて、おとぎ話以外ある訳ないでしょう?」


ジェイドの主張を正論だと理解している以上、反論のしようもなく言葉が喉につまった。
その様子を見て、男は直前の冷たさが幻だったかのような満足げな笑みを浮かべ、雰囲気が元のものに戻る。
まるでテレビのチャンネルを切り換えたかのようだ。
その早さに漠然とそう思っていると、男は身体をひるがえす。
そして扉の前まで歩くと、背中を向けたままとても楽しそうな声色で喋った。


「疑いが解ければそこから出られますからそれまで頑張って下さいね〜」


振り返ることもせず手をヒラヒラと扇いで扉の奥へと去って行く。
扉が閉まると怒りなのか安心なのか身体がわなわなと震えた。
知っていたけど性悪だ。性悪すぎる。

一度被害に合ったことがあるからなのか、扉の横に立っていた見張りっぽい鎧の人から同情の視線を感じた。





見えない空
見上げてみても遮断されたここからは空は見えなかった。

090409:181012
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