#04 見慣れない空
side:主人公4
水の落ちる音が聞こえる。
次に冷たいものが額にあるのを感じた。
だが、身体はどこかふわふわとしており嫌な気分ではない。
そのまま、まどろんでいたい気分だったが、名残を惜しみながらまぶたを開く。
(たおる……?)
手を伸ばして確認すると、額には濡らしたタオルが乗っていた。
そのタオルは濡れていても手触りがとてもよく、普段使っているものより幾分も良いものだと分かる上等なものだった。
そして回りを見渡してみると証明も、壁紙も、今使っている寝具一式も、自室ではないと分かる良質さである。
どうりでふわふわとした感覚がする訳だと、身体が沈みこむベッドの中、一人で納得した。
(でもここ、どこだ?)
昨夜の記憶に手がかりはないかと寝起き直後の頭を巡らしていると、赤色のグラデーションが目に飛び込む。
その鮮やかさに、まるで起こしたばかりの火を見ている感覚に陥った。
(なんか、キャンプファイヤーを思い出すなあ)
居心地の良すぎる寝具もあり、思考を放棄してまた夢の世界へ旅立ちそうになる。
眠気と戦ってうとうととしていると火の宿主がこちらに振り返った。
青年との狭間にいるであろう少年が、目を少し丸くした後に穏やかな笑みを浮かべた。
「気が付いたか」
彼は読んでいた本を机に置き、こちらに歩み寄ってくる。
歩く度に揺れる長い髪の様を見ると本当に火が揺らめいているようだ。
それに髪色に反した青みがかった緑の瞳が、きらめく海のようによく映えていた。
ただ、改めて相手を全身で見ると既視感があった。
主人公3たちがやっていたゲームにこういう色合いのキャラクターがいたような気がする。
誰だったかあと少しで名前が出てきそうなのだが、中々出てこない。
とりあえず、なんとなくだが、"火"ではなく"焔"だったような───
反応がない俺を心配してか、彼は深刻そうな顔をしてこちらを覗きこんでくる。
「なあ、お前身体とかなんともないか? いきなり空から落っこちてきたんだぜ」
「特になにも……って、空?!」
自分が空から落ちてきた?
突拍子もない言葉にベッドから飛び上がって全身を見渡す。
いつもの寝間着ではなく、上質な生地でできたパジャマに着替えさせられていたがそこは今気にしないでおこう。
全身を触ったり軽く叩いたり動かしてみたりするが、痛みも異常も目ぼしい感覚は特になかった。
安心して胸を撫で下ろすと、それを見ていた少年も安堵の息を漏らす。
「なんともないようでよかった」
彼の様子からして、さっきのは冗談の類いではなかったようだ。
しかし空から落ちてきたとか、どう考えても衝撃とかがあったろうになんでその瞬間の意識がなかったんだろうか。
頭に衝撃があれば記憶が消し飛ぶこともあるかもしれないが、たんこぶも傷あともなかったし。
色々と思考がまとまらないがとりあえず、今は五体満足で生きていることを喜ぼう。
少年は一人で頷きはじめた俺を横目に苦笑しながら床に落ちたタオルを拾い、水がはってある桶の縁にかけた。
ドア近くにも同じように水をはった桶とタオルが見え、ここに落ちてからそれなりに時間が経っているのだろう。
机の上にはさっき読んでいたもの以外にも何冊か本が平置きされており、彼はそれで暇を潰ししていたことがそれとなく理解できた。
「あー、その……ありがとう。看ててくれてたんだよな」
「礼なんて別にいいよ。元々やることなんて俺には全然なかったからさ」
少し自嘲が入った笑みを浮かべて彼は言う。
年相応とはあまり思えないその表情に、俺は少し胸が痛くなる。
そしてそんな表情を見て、ひとつの名前が頭に浮かんできた。
ルーク
一字一句脳内で反芻すると、すとんと腑に落ちた。
きっとこれは彼の名前だ。
だが、彼はその名前に抱いていた印象とは違う言動をしていることに首を傾げる。
そんな俺の疑問も露知らず、ルークは少しバツの悪そうな顔をして話し出した。
「後でえーと、お前……いや、君……のことについて話したいことがあるんだけど大丈夫か?」
「え?ああ!俺の名前は主人公4だ!よろしくな!」
二人称で何度か言いよどむルークを見て、彼に自分の名前を伝えていないことに気づいた。
当たり前のことに気づかなかった自分を笑い飛ばしながら自己紹介をし、握手をしようとルークに手を伸ばす。
ルークはそれに安心したのか、下がり眉で笑いながら伸ばした手を握ってくれた。
「俺は…………ルーク。ルーク・フォン・ファブレだ」
名前を言う時に少しためらったような素振りを見せた後、「よろしくな」とまた苦みを含んだ笑いをしてルークは握った手を軽く上下に振った。
見慣れない空
彼越しに見えた空はいつも見ていたのとは違った色をしていた。
190914
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