明鏡ver
「どうして私がこんなところに.......」
明鏡は万世極楽教と札を掲げている邸に一人立ちすくんでいた。

遡すことほんの数日前、明鏡は鬼殺隊の長である産屋敷耀哉の元に呼ばれた。そこで、万世極楽教という怪しげな宗教の長が上弦の可能性が高いと言われたが、明鏡は鬼殺隊ではないためそこまでは聞き流していた。しかし、次に産屋敷から出た言葉は「明鏡にはどうか万世極楽教に潜入してほしい。」であった。思わず明鏡は奥方であるあまねの入れたお茶を吹きかけそうになった。上弦であった場合、普通の隊士はもちろん、柱一人では対処できないと考えた上で明鏡に頼み込んだという。産屋敷は半鬼である明鏡を生かしている恩があるため、明鏡はこれを二つ返事で返し、今に至る。

今の明鏡はいつもの神社の神主じみた服装では無く、一般の平民が着るような浴衣に羽織り、髪はいつものおかっぱの下の髪を三つ編みでは無く、下ろしている。そして、鬼の半面では無く包帯を目に巻き、目が不自由な人間を装った。明鏡はこれはもう当たって砕けるしかないと思い、すみませ〜んと、か細い声で邸の門…扉をノックする。暫くすると女の人が出てきて、入信したい否を伝えるとすぐ、教祖と呼ばれる人の部屋の前に連れてかれた。部屋の前からは鬼の匂いが香っている。明鏡の顔は強ばり、大きく深呼吸をする。
 「.......しつれいします。」
女の人は襖を明け、そのまま私は教祖と呼ばれる人の前まで歩き、正座をして座った。
「玲香と申します。」
偽名を名乗り、座令ををする。目の前にいる男はどんな顔をしているのかと明鏡は内心思う。明鏡が顔を上げると教祖は目に巻かれた包帯を見るや否やへぇ.......と興味ありげな声が漏れた。
「君はどうしてここに来たんだい?俺が聞いてあげよう。」
「実は_______」

ぺらぺらと嘘を並べ、盲目で、1人で生きてき、多くの人から邪魔者扱いされ、万世極楽教の話を聴きつけてここまで感覚を生かし、ここまで来た、と言うと。教祖は辛かったねぇ.......とすすり泣き、明鏡を抱きしめる。明鏡はこんな事でここまで普通泣くのかと思い、すぐさま演技だと気づく。
「いいよ、君の居場所はこれからここだ。俺が極楽へと導こう。」
教祖の言う極楽.......それは教祖の腹の中なのだろう。明鏡は口を歪め、ありがとうございますと今日その手を握った。教祖も怪しげに笑みを浮かべてると知らずに。

夜、夕食後、明鏡は与えられた部屋を出て、ヒトの血の匂いを追って歩く、目が見えないままどんどん近く。辿り着いたのはあの教祖の部屋であった。明鏡は何も考えず襖を開ける。目が不自由な人間を装ってる為、部屋を間違えたと思われると信じて。
「あれぇ、君は.......部屋でも間違えたのかい?」
明鏡の予想は当たった。彼は人喰い鬼で、ヒトを食べていた。そして、見事部屋を間違えたと思ったのだ。
「あぁ、申し訳ございません部屋を間違えてしまいました。教祖様の部屋でしたか.......。」
背を向け、部屋を出ようとした。もうこの邸自体にいる意味が無いからだ。ここにいるのは人喰い鬼だ。こんな大規模な組織はもう上弦でなくとも関係ないだろう。
「教祖様はお食事中でしたか。匂いからして.......お肉、でしょうか?」
部屋の空気が凍りつく、しばらくの沈黙、教祖はふははと笑い始め、君は鼻も聞くんだねぇ。と言うが、話し方からして、アツを感じる。めんどくさくなる前にと明鏡は失礼。と背を向ける。
「ねぇ、キミは鬼.......じゃないよね?」
明鏡の肩がビクリと震え恐る恐る振り向く、まさか気づかれたのか?と言葉が口先まで出かけるがそれを堪える。
「教祖様はご冗談が上手いですね。」
明鏡は先程と同じように口をゆがめて、今度こそ失礼します。と部屋をあとにした。

布団に入り、眠りにつく明鏡。明鏡は半鬼の為、睡眠はとる。人と同じで夢も見る。その日明鏡はまだ見た目が3歳ぐらい程の夢を見た。明鏡は昔から母の顔も父の顔も知らず、寺で育った。寺にはおっしょうがいたが、明鏡のことを酷く怖がっていたため、飯を与えるだけで、話すことも触れ合うことも無かった。そんな時だ、明鏡は寺の外で蹴鞠で遊んでいると一人の男に声をかけられる。「キミは鬼かい?良かったら俺と一緒に来ないかい?」幼い明鏡はその男を不思議そうにみて、何かを答える。幼い明鏡の声は聞こえず、口パクのように口が動くだけだった。その時の幼い明鏡の瞳は男と同じ、虹色に輝いていた。それを見たのか男は、そうか.......そうかと言い、もう少ししたら迎えに来ると言ってその場を去って言った。

朝、目が覚めると目から涙が流れた。あぁ、そうかと明鏡は呟くと、起き上がり、昨日と同じ着物ではなく、いつもの神主じみたものを着る。髪はおカッパの部分を残し、長い部分を三つ編みにする。準備が終わると荷物を全て持ち、教祖.......もとい、父親であろう鬼の元へ向かう。
「失礼します。教祖様」
中から、いいよ〜という脳天気な声を確認すると、中へと入り、昨日と同じ位置に正座をして対面する。
「教祖様は、昨日も、そして"数百年前"も、私を鬼ではないか?と聴きましたよね?」
明鏡それを口にすると、え?と、困惑してるであろう声が聞こえ、明鏡は可笑しくてたまらずふふ、ふははははははと腹を抱えて笑い始める。笑いが落ち着き始めると同時に、目元に巻かれていた包帯を解いていく。もうこんなものは要らないのだ。
「ははは、驚いたよ、まさか幼いとき会った鬼がこんな変な宗教の長で、私の"父親"だなんて、ふふふ。」
包帯をその場で投げ捨て。改めて鬼と対面する。やはり、幼い時にあった鬼は今目の前にいるものだった。虹色の瞳は怪しげに光っている。
「やっぱり君かァ、あの時は君の母親の居場所やっと突き止めたからさ、君だけでも此処に連れて帰ろうとしたんだけど.......まさか君からここに来てくれるなんて、嬉しいなぁ」
その言葉に明鏡は顔をしかめる。貼り付けた笑みが憎たらしくて堪らず背負っていた日輪刀で切りかかるが、避けられ、刀身を掴まれてしまった。
「日輪刀使えるんだ?へぇ.......」
目を細め、明鏡の身体を頭からつま先までまじまじ見ると、大きくなったねぇ、と呟いた。
「ねぇ、何してるの?」
鬼は声の元へ振り向く、そこには鬼の半面をつけた明鏡が立っていた。では、今自分が相手にしてた者は?とそちらを見ると、そこには何も無かった。その隙に明鏡は窓を開け、窓のふちに座る。
「あははははは、私は"明鏡鬼童"また会おうね、父さん!」

明鏡は鬼が向き直った時、そう言って窓から飛び降り、そのまま呼吸を使い、走り去った。鬼_____こと、上弦の弐 童磨は、あぁ、母にも子にも、逃げられてしまうね。と呟き、また会えるであろう日を心待ちにしていた。




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