君の写真


 パトロールが終わった後、近くの広場から聞こえてきた歓声に思わず振り向くと、近くの木にはヒーローショーと書かれた張り紙が貼ってあり、思わず気になって張り紙を手に取る。
「ヒーロー…ショー?」
「指揮官さん?どうかしたんですか?」
 立ち止まった私を心配したのか、慎くんと御鷹くんが私の顔を覗き込んだけど、それを無視して髪をマジマジと見つめる。紙はまだどうやら新しくて、よく見ると開催日の日付は今日だった。
「気になるんですか?」
 その言葉に瞳が揺れる。幼い頃。白い世界の中には何もなかった。特に娯楽はなくて、ヒーローショーなんてものは幼稚な人たちが見るものと言われて育った。本物じゃないヒーローが見れるショーは、不完全な私の身体と何だか似ている気がして、気がついたら会場と書いてある広場の方角に足が向く。一歩二歩、歩いたところで、後ろをついてきてくれた慎くんと御鷹けんに気になっていた事を口に出す。
「そういえば、頼城くんと戸上くんは…?」
「えっと多分ヒーローショーを見に、俺たちより先に行きましたね…パトロールが終わって多分すぐ。」
 その言葉を聞いて、思わず歩くスピードは自然と早くなる。なんだか嫌な気配がして、後ろで「え、ちょっと?!」「指揮官さん?!」っと戸惑っている慎くんと御鷹くんのことを考えずにスタスタと歩いて行く。

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 広場は割と大きくて、ステージを囲うのはやはり子供が多くて、すぐに頼城くんと戸上くんを見つけてそちらに向かうが、聴き慣れた声に足を止め、ゆっくりとステージを見つめる。
「行くぞ!怪物ミッキーター!決着をつけてやる!」
 ステージの上に立つ、若草色の髪の毛、ペリドットのように輝く黄金の瞳。紛れもない巡くん。本人だ。私の口からは思わず「なんで。」と小さく溢れて、二度早く瞬きをした。
 ステージの上の巡くんは、今までに見たことのないような珍しい表情をしていて思わず端末のカメラアプリを起動させればパシャリとシャッターを切った。この写真は帰ったらホーム画面にしてこっそり宝物にしようと、ショーを考えながら見ていたが、どうやら敵役は光希くんで、巡くんのぎこちなさや迷いに目が引く。
「たいへん。」
 そう小さく呟けば、入り口付近でショーを見ていた慎くんと御鷹くんに「お願い、巡くんがあそこで困ってるみたいなの。アドリブで、なんとか助けられないかな?」と、ステージ上の巡くんの上を指差す。
「上手くできるかはわからないっすけど、やってみるっす。」
「僕も、出来る限り力になりたいと思います!」
 2人の二つ返事に「ありがとう。」と小さく言えば裏方に向かって「すみません!衣装を貸してください。」と、今日一番の声を上げた。

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「それにしてもよく撮れてたなぁ。」
 合宿所に帰った私はすぐに端末のロック画面を先ほど撮った写真に変える。
 いつもは写真を撮っても震えて良く見れないのに、今回撮った写真は綺麗に撮れていて、自分でも惚れ惚れとしてしまい、好きな人の写真というものだけあって思わず口端が上がってしまう。
 こんな顔みんなに言われたら何言われるか分からないと思って自室に急ぐけど、何かにぶつかった拍子に端末は落ちてしまって、私より伸びる手が先に_______
 いや、問題はそこじゃない、この手はいったい誰で、私がぶつかったのは一体誰だろうと手、腕と、視線を徐々にあげていくと、そこには端末の画面と同じ、若草色の髪が揺れていて、私は一気に変な汗がだらだらと流れでる。
「万里乃、よく前を見て歩けとあれほど___。」
 終わった、完全に終わった。巡くんの拾った端末は運悪く運の悪いタイミングで通知が来て私の端末のロック画面が露わになる。
 当の本人は肩を震わして端末を見つめたまま動かない。
「えと…あの、巡、くん?、」
 あまりにも動かないから、勇気を振り絞ってその肩に触れようと手を伸ばす。しかし、その手は、ぐいっと引っ張られて目と鼻の先に画面越しじゃない巡くんの顔が映る。
「万里乃…。」
 いつもより低い声で名前を呼ばれれば体が震えて動けなくなる。ピトッと冷たい手で頬で撫でられて思わず「ひぇっ」と声が漏れる。
 巡くんの息が髪にかかって、くすぐったい。息が詰まって身を硬らせる。
「…俺がここにいるんだから、これロック画面は元に戻せ。」
 手に重みを感じたと思えば手に端末を乗せられて、そのまま私の横を通り過ぎる。
 私の横を通り過ぎた後、小さな声で、「危なかった。」と聞こえた。それを聞こえないふりをして自室に入れば閉じこもり、ドアの前に熱い顔を抱えてしゃがむ。
 「あぶないのはどっちなんですか……。」
 
 今一度端末のボタンを押して巡くんの写真のロック画面を付けるが、画面越しにみる巡くんの顔を見ると今以上に顔が熱くなって端末をベットに投げつけた。