君の誕生日も祝いたい


「お前たちに相談があるんだ。」
 斎樹巡は、今日という今日も優雅に紅茶を口に含めば、談話室にいる仲間たちに向かって声をかけた。
 まず最初に反応をしたのは彼の友である頼城紫暮、友の思いがけない行動に驚いた顔で口を開いた。
「巡が皆に相談なんて珍しいな、そんなに何か悩んでいるのか?皆に頼らずとも、この頼城紫暮が直ぐに解決して見せよう。」
「はは、頼城。今回はそうも行かないんだ。今日が何日でなんの日か、お前なら知ってるだろ?」
 巡はジトっと目を少し伏せて頼城のことを見れば、頼城はすぐに「あぁ!」とすぐに頭上の豆電球の灯りが灯ったようだ。
 それを見た巡は一度はぁっとため息をつけば、飲みかけの紅茶を見つめる。紅茶の中には自身の顔が反射して映っており、なんとも言えない顔をしていた。
「今日、8月10日は、田荘…いや、指揮官さんの誕生日だ。俺はあいつと幼い頃から一緒にいたから知っているが、あいつは今までまともに誰かから誕生日を祝って貰った事がない。だから────。」
「誕生日パーティーを開かないか?もちろん、盛大にな。」
 詰まった巡の言葉を補ったのは頼城だった。巡よりかは共にいる時間は少なかったが、彼も指揮官の家庭事情を知っていた。
 自身の言葉を補った頼城を見て、巡は一瞬驚きをしたものの、すぐに「まぁ、その通りだ。」と顔を上げて微笑んだ。

「丁度今日、訓練の関係で全員いるんだ。やらないか?指揮官さんの誕生日パーティー。」

 その言葉を批判するものは居なく、満場一致で準備に取り掛かった。

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 夜。食堂に夕食が用意されている時間に、指揮官は食堂へと入ろうとする。が、食堂が真っ暗なことに気づき、恐る恐る足を踏み入れる。と、パーーンっと何かが弾けた音に「ひぁっ!」と変な声が漏れる。
 指揮官の頭にかかるのは星屑のようにキラキラしている銀テープやホログラムで、部屋の電気はいつの間にか付いていた。そのせいで余計キラキラとして見える。彼女の目の前には、ヒーローたちがいて、神ケ原さんもいて、にこにこしてこちらを見ているものだから、指揮官は思わず「え、え」と困惑するしか無かった。
『指揮官さん、お誕生日おめでとうございます!!!』
 今まで誰からも貰えなかった言葉に、指揮官の目は霞んだ。その目には涙があふれそうで、一人ひとりの顔も見えるか危ういだろう。
「指揮官さん、これ少ないですけど僕たちからのプレゼントです。」
「みんなで色々お金だしあったりしたんだけどね、こんなものしか渡せなくて…ごめんね。」
 三津木慎と透乃光希が指揮官の目の前にやってきて彼女にぬいぐるみと花束を渡す。それを渡された指揮官は「貰っていいの?」と、恐る恐る手を伸ばす。そんな彼女を見て、慎は「はい!」と微笑む。
 ぬいぐるみと花束を受け取った指揮官はより一層目が霞み、先ほどより涙があふれてしまいそうだ。ギュッと抱きしめ、涙があふれるのを我慢した。
「みんな、ありがとう…誕生日を祝って貰えたのも、誕生日プレゼントを貰ったのも、今日が初めてです。今日のこの日ごと、宝物箱にしまっちゃいたいぐらい嬉しいです。…ありがとうございます。」
 指揮官は今まで以上の笑みを見せると、涙を一つ流した。その涙はダイヤモンドのように輝いていた。

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 指揮官の誕生日パーティーはあれから盛り上がり、食べ、飲み、ゲームをしたりして、PM22:00現在、ひよっこ1年生は全滅で寝てしまい、残る2、3年生は一部を除き談笑をしていた。
 指揮官はベランダで1人夜風に当たる巡を見つけては、彼のいるベランダに出て隣に立った。
「誕生日パーティー企画してくれたのは、もしかして巡くん?」
「なんでそう思ったんだ?」
「だって、私の誕生日知ってるの、巡くんと紫暮くんぐらいでしょ?」
 指揮官…田荘の問いかけに、巡は「はは、頼城じゃなくて俺だと思ったんだ?」と言えば、田荘は「感かなぁ。」と曖昧な答えを溢す。
 それを聞いた巡は「まぁ、言い出しっぺは俺だな。」と目を伏せた。
「ねぇ、巡くん。私、今までずっと平凡な生活に憧れてた。友達と遊んで、家族とご飯食べて、恋人も作りたかった。それが一番"幸せ"な事だとずっと思ってた。」
「あぁ。」
「でもね、私、今が一番"幸せ"だよ。だからね…来年も、再来年も、五年後も、一緒に誕生日を祝おう。」
 巡は田荘の思いがけない言葉に顔を赤くした。
 巡も田荘と同じで家族から誕生日を祝われたことはない。
 田荘の言葉に巡は「お前がそうしたいのなら、そうしよう。」と、田荘から視線を逸らしながら言う。田荘は「うん。」と言い、微笑んだ。
 
 夏の夜、昼間よりかは涼しい風が、2人の間を吹き抜けた。