夏の夜の魔法



 夜の無人島は真っ暗で、星は向こうで見れないぐらいの満天でプラレタリウムに来たみたいで思わず目を奪われる。
 みんなが眠りにつこうとするときに海辺に向かう彼を思わず追いかける。シュリを置いて、彼、頼城の隣に追いつけば、彼は目を丸くして足を止めそうになったけど、私が「行かないの?」という風に目で訴えればすぐに微笑んで海辺に向かった。
「楓はいいのか?柊や皆と離れてしまって。」
 その言葉にシュリを置いてきてしまった私は話す手段が無いため、ただただコクリと頷く。
 紫暮はそれをみて「そうか。」と目を細める。
 確かにみんなの側にいないとお兄ちゃんは心配するだろうけど、それよりも今は、紫暮が心配だ。      
 みんなの元をそっと抜けていっ紫暮はどこか消えてしまいそうで、そのまま空の星になってしまいそうでとてもはかない。
 消えてしまいそうな紫暮がほっとけなくて、なんだか気になって波の音がよく聞こえる浜辺まで二人、ここまで来てしまった。
 波の音が心地いい。夜の風はどこか寂しげに吹いている。
 紫暮に「なんで一人でこんな所に来ようとしたの?」「疲れてるなら休めば?」と伝えるにはどれも合って居なくて、思わず口をつぐんで彼の服の裾を掴めば「どうかしたのか?」と私の顔を覗き込む。
 気がつけば私の手が動いていて、気がつけば水しぶきがあがる。月の光で反射して控えめに光る水しぶきと海の浅瀬に倒れる形の紫暮。
 刹那、バッシャーンと音を立てれば波打ち際に倒れ込む彼。
 受け身を取ったのか尻餅をつく形で倒れたので、海の水に濡れたまま眉を潜めてこちらを見るが、直ぐにその目は見開かれる。
 ______ふふっ、ふふふ
 私にも自分で何が起きたのか分からなかった。
 気付いたら紫暮のことを浅瀬に向かって押し倒し、水しぶきが上がって、誰かが笑っている。あぁ、違う。これは紛れもない、私の声だ。
「楓…?もしかして声が?」
 自分でもよくわからぬまま、自身の喉元を触り、「あー、あー」と声を出そうとするが。ちゃんと私の声は出た。出たんだ。声が戻ったんだ。
 嬉しさで尻餅をついたままの紫暮に抱きつく。
 この際服が濡れようと構わない。紫暮が「楓?!」と驚いた声を出したけどそれも気にしない。
 嬉しさからただただぎゅっと抱きしめていたが、この際今まで苦しかった分を吐き出してやろうと、「うわぁ〜〜ん!!」と声を出して泣いた。
 状況読み込めないであろう紫暮は今、どんな顔をしているだろうか?私は知る術はないが、私の背中を撫でてくれる彼の手はとても優しかった。
 
 波に打たれながら、お互い海水で濡れたまま体温を感じて紫暮の心音を子守唄に私はそのままめを閉じた。