どんな君も愛すよ


「智樹、あとは頼んだ!」
「俺のモノに手ェ出すとは、ええ度胸してはるなぁ。」
 吉田にトリを譲れば、佐海は痛む体に耐えきれず、その場に倒れ込む。吉田はその姿を横目で見て、眉を潜めれば、自身の武器であるフラッグを振るう。
 佐海は、これで大型イーターは倒せた。一安心だというように目を閉じるが、数秒後、足音が近づいてきては身体を邪魔だと言うふうに嬲り蹴られる。
「いって!?何すんだよ!」と閉じていた目をゆっくりと開ける。
「あぁ、よかった。生きてた。」
 蹴りの正体はもちろん吉田智樹、いつものニヤついた顔でこちらを見ている。
「怪我人を蹴るんじゃねぇ!…あー、だめだ。身体うごかねぇ、智樹、手ぇ貸せ。」
「いやだ。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ??!!」
 清々しいほどの笑顔で吉田は佐海の頼みを切り捨てる。それが吉田智樹という人間で、神と狂信者を嫌う者。一番救いを求めて救いを得られなかった者。
 それは佐海が一番理解していた。
「そもそも、その出血じゃあ、暫くは死にはせぇへん。」
 佐海は黙りこくったまま動かず、吉田は目を細めて彼を見ている。その顔は大切で愛しいものを見る顔だ。
吉田は膝を曲げて地べたに倒れ込んだ佐海に近づく。佐海は「なんだよ。」と吐き捨てる、吉田はその言葉に口元を歪めれば、手を伸ばして傷ついた彼の顔を撫でる
「なぁ、助けて欲しい?」
 にこにこと満面の笑みでそう問いかける吉田を見て佐海は恐怖さえ感じた。彼はいつだってそうだ。
 吉田はわざわざ人のして欲しいこと、嫌なこと、分かっていて聞いてくる。
 佐海はため息をつけば、「さっきも言ったろ、手ぇ貸せ。」と顔を歪める。傷口からは相変わらず血が流れてるが、吉田はびくともせずただただ見つめている。
「良輔、俺はその腕を、脚をもがれても、顔がなくても、全身焼けただれても、溶けても…愛してるで。」
 腕、脚、顔、と吉田は人差し指と中指で走るように佐海の身体を触り、耳元で囁けば、彼は「んなっ?!」と顔を赤くしたが、すぐにぶっきらぼうに右手を引っ張られ起きあがるも、起き上がった位置、吉田のしゃがんでる位置が見事に重なり、吉田の胸の中にすっぽりと収まる。
 吉田はそのまま包み込み、佐海は状況が理解できておらず目を白黒させてる。
「ほぉら、ご要望通り、手を貸したで。」
 彼を抱きしめたまま、吉田がそう耳元で囁けば、 状況を理解した佐海が吉田の胸を突き放したが、彼は相変わらずにやにやと口元を歪めていた。
 「ほら、帰るで。」
 やっとこさ、佐海に手を貸した吉田は、彼の手を強く握ったまま、ALIVEに向かって二人返って行った。