#24"そういうところ"とは、何だろうか。
怪我の具合を心配するクラスメイト達にお礼を言いながら、頭の片隅で考える。
物分かりのいい生徒、を、演じられたこと？
否、後続の台詞から推測するに、違う。
変顔が面白いこと？
‥これはあるな、好きな人に披露する是非は置いておいて。
煉獄は非常に頭がよく、人の機微にも敏感だが‥たまに分からない事を言う。もしかしたら、分からせるつもりが無いのかもしれない。
｢それでは最後に、教職員による借り物競争でーす！｣
放送席からアナウンスがあると、生徒達はワッと盛り上がった。
先生達がスタートラインに集まってくる。煉獄先生を応援するぞ！
‥ん？
ワクワクしていると、水色の生地、白い雲の模様のジャージが見える。
鱗滝さんも出るの！？‥これは事情が変わった、鱗滝さん大好き‥！
周りも思い思いの歓声をあげている。
とにかく、煉獄先生と鱗滝さんに頑張ってほしい！あと、体格のいい男達に伊黒先生が吹き飛ばされない事を祈る。
パァン！
空砲の破裂音と共に、物凄い土煙が上がる。おぉ、宇髄先生速い！大きいのに！
お題の書いた紙を手に取り、めいめい散っていく。煉獄先生は‥ん？誰か探しながら2年のエリアに入っていくな。
｢前田ー！！眼鏡を貸してくれ！｣
前田と呼ばれた男子生徒は、嫌がっていたが‥抵抗虚しく、周囲の生徒に眼鏡をもぎとられた。
｢ちょっ前田からメガネを取ったらただのゲ‥｣
｢チクショオオオオオ！｣
盛り上がっている生徒達を尻目に、煉獄は眼鏡をおでこにかけるとゴールへ走り出す。
メガネメガネ！！と言いながらニッコニコで走る煉獄先生が可愛すぎる！！！！！
少年みたいな笑顔である。可愛さの暴力！！
お題の難易度はそれぞれで、煉獄は当たりの方だ。後ろから凄い勢いで追ってくる不死川は机を担いでいるし、冨岡はピンクの筆箱、鱗滝さんは校舎内から傘を持ってきたらしい。その後ろはカオスだ。宇髄はスタートピストルを持っていて絵面的にアウト、伊黒は鼓を持っていて後ろから響凱先生に追われている。
結局、そのまま煉獄が一位でゴールした。
そこに団子状態の残りの教師が突撃した為、｢よもや！｣と聞こえた後砂埃で何も見えなくなった。
‥霧が晴れた時には、現場は死屍累々で、悲鳴嶼の読経が聞こえたという。
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｢｢｢おつかれー！！｣｣｣
その放課後。
筍組はファミレスを貸し切り打ち上げをしていた。何となく集まってしまう習性があるのか、6班でボックス席に座っている。
｢なまえ、足は大丈夫か？｣
炭治郞が心配そうに聞いてくれる。
｢なまえの走りは凄かった！親分として鼻が高いぜ！最後の技もバッチリだった！｣
｢ありがとー！技じゃないけど！｣
大食いチャレンジと見紛う量の山盛りポテトを口一杯に頬張る伊之助。いい食べっぷりだ。
｢でもさ、MVPは善逸くんだよね。転んで一回離されたのに、追い付いて抜かしちゃうんだもん。格好よかったよー！｣
そうそう！と、他の女子も賛同する。
善逸は顔を真っ赤にして頭をゴンゴンテーブルに打ち付けたり、くねくねしたりして照れている。店員さん、煩くてごめんなさい。
今日一日の感想をあれやこれやと喋っては、ドリンクバーを往復し、カロリーを気にせず食べまくる。楽しい！
｢そういえばさ、｣
チーズインハンバーグをモリモリ食べながら、友人が思い出したように口を開いた。
｢なまえと炭治郞が付き合ってるって噂になってたよ｣
｢｢ブハッ｣｣
｢うわっ汚ェ！！｣
同時に飲み物を吹いたなまえと炭治郞に、伊之助は慌てて自分の皿を避難させる。
｢何ィーーー！！？？なまえちゃんと噂になるなんて！！キィィィー！！とんでもねェ炭治郞だ！！羨ましい！！！｣
善逸はハンカチを噛みしめている。勿論、この班の者はその噂が事実とは異なることを知っている。
｢部活一緒の友達がさ、夏祭りで二人が手を繋いでるの見たって｣
｢あ？それなら俺らも繋いでたよな、紋逸｣
｢伊之助は黙ってて｣
ギリギリと歯を食い縛る善逸は、もう自分がどこに怒っているのか分からない。
(炭治郞かぁ)
可愛い顔、頭も性格も良くて同い年。
彼を好きだったらどんなに楽しいだろう。
色んな話ができて、気兼ねせずアタックして、デートにも誘える。うまくいったら映画とか、遊園地とかプールとか、カフェとか、買い物とか行って。フラれたとしても、友人としてずっと仲良くしてくれそうだ。
でも先生を好きになってしまった。
彼にとっては自分は生徒だし、万が一、億が一彼に興味をもってもらえたとて、付き合えることは無い。そもそも告白したら終わりってどんなゲーム？
先日の冷たい声を思い出してゾクリと身震いする。大人の男の人の迫力は凄い。
それでも、恐らく、非常に自分に都合良く解釈すれば‥‥少しは気にかけてもらっている方だと思う。‥盗撮魔の件に彼が責任を感じているからだと‥解釈しているが。
やいやい言い合っている善逸と伊之助を見ていると、炭治郞と目が合う。やれやれ‥と笑いあった。
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