・私の後輩が毒舌すぎる件について(req)
色素の薄い髪色。それと同じ色をした瞳を備える、大きな目。陶磁のような白い肌。少し日本人離れした顔立ち。白布賢二郎くんは、お人形さんのような見た目をしたひとだ。
「#NAME2#さん」
「なに?」
「あんまりじろじろ見ないで下さい。減ります」
「何が!?」
そしてそれでいて物凄く毒舌だ。それも相俟って私は先輩のはずなのに、彼の独特のそのオーラにはいつも気圧されがちだ。頼もしいと言えば頼もしい。
けれども私にだって、先輩としてのプライドはある。
「白布くん」
「チッ、うるさいなぁ」
「うん。お願いだから心の声少し隠して。先輩泣いちゃうよ」
「はぁ…なんですか」
白布くんは今日も今日とて練習終わりに、部室で教科書とノートを広げていた。ノートには、ほとんど走り書きにも関わらず綺麗な字が並んでいる。なんともまぁ、白布くんらしい。
「分からないところあったら、いつでも聞いてね!」
「あぁハイ、分かりました」
白布くんはいつになく素直にそんな返事をしてきたのだった。なんだなんだ、可愛らしいところあるじゃないか。少し悦に浸りながら、気分も良かったので私は部室の拭き掃除を始めた。
…しかしてその後約1時間が経過しても、白布くんから質問が飛んでくることは一度たりとも無かったのだった。私は、いいようにあしらわれたらしい。
「白布くん」
「なんですか」
「もう部室ピカピカなんだけど」
私がいかに長い時間、白布くんからウキウキ気分で踊らされていたかを物語るかのごとく、部室内は嫌みったらしいくらいに綺麗になっていた。雑巾を絞っても、もう濁った水すら出てこない程に。
「さすがですね、#NAME2#さん」
「私は別にお掃除スキルを褒めてほしいわけじゃないんだよ!?」
バケツと雑巾を片付けながら、私は渾身のツッコミを入れた。これはあくまで時間潰しでしかない行為だ。私はもっと、白布くんの役に立って、白布くんから感謝されて、それで、
「#NAME2#さん、俺に何かを褒めてほしいんですか?」
「なっ…!!」
違う、そうじゃない。私は先輩としての威厳を見せつけたいわけで。でも私の発言の数々は自分で振り返っても、なんだかそう言っているかのようで。
なんだか一気にこっぱずかしくなって、磨き立ての床にうずくまってみた。
「何してるんですか」
「一人反省会」
「はぁ」
「ほっといて」
「構う気はありませんが、物凄く間抜けですよその格好」
「なっ…!」
顔を上げると、視界が滲んでいた。あれ、私なんで泣いているんだろう。後輩の辛辣な言葉の数々に泣かされるだなんて、先輩としての威厳もへったくれもあったもんじゃない。
でもここで折れる私じゃない。伊達に上も下も同級生も曲者揃いな白鳥沢のマネージャーを務めて3年目になるわけじゃない。
「白布くんがそんなことばっか言うから、先輩泣いちゃったよ!?」
逆境さえも味方に。なんともまぁ、絶対王者白鳥沢の一員っぽいじゃないか。
この際自分で自分の傷を抉っている事実については、目を逸らすことにしようと思う。
「フッ」
「………!」
なんとこの後輩、鼻で笑った。先輩を鼻で笑いやがった。
いやあのまず、先輩後輩置いておいたとしても、涙を浮かべる女の子に対して一瞥をくれることもなくそんな素っ気ない対応をしてくるだなんて、イケメンとしておかしくないだろうか。私のイケメンに対する偏見なのだろうか。
「もう、白布くんなんて、知らない!」
「いい加減ウザいです、#NAME2#さん」
「今更だね!?」
「自覚あったんですか」
とぼとぼと、白布くんの向かい側のパイプ椅子へと戻る。机の上のテキストは先刻私が見たページよりもだいぶページ数が進んでいた。
なんだか“俺にはあなたの存在なんて必要ありません”とそのテキストに言われているみたいで、また更に少し落ち込んだ。
「…白布くん」
「なんですか」
「尊敬してほしいとか、そんな恐れ多いこと言わないから、せめてもう少し優しくして下さい」
もうここまできたら、プライドとか言っていられない。ひとまずこのズタズタになってしまったメンタルをなんとかしないことには、この先もちゃんと“白布くんの先輩”でいられる自信なんてないのだ。
「…でも#NAME2#さん」
「はい」
「俺がどんな生意気な発言をしようが、#NAME2#さんは俺のことが大好きなんですよね」
「へっ」
「じゃあ、いいじゃないですか別に」
白布くんは溜め息混じりに淡々とそんなことを呟いた。
言っている意味がよく分からない。会話のキャッチボールが些か滞ってないだろうか。
あれ、でも、
「…あっ、そっかぁ…」
妙に納得してしまった。それなら、別にいいのか。あれ、いいのか?
「フッ、」
「?」
そんな間の抜けた返事をしてみると、白布くんは少し笑ってみせたのだった。
白布くんの笑顔は、それこそお人形さんのようで、それでいて年相応の少年のようで、私は大好きだったりする。ごく稀にしか見せてくれないけれども。
とにかくまぁ、白布くんがこうして笑ってくれるならいいかなぁ、なんていろいろと細かいことを抜きにして今日もまた満足してしまうのだった。
「じゃあ、あとは大人しく俺の勉強終わるの待ってて下さいね」
「?うん、分かった」
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