俺の主は現世から帰ってきた日の夜、必ず夜酒をする。それも一人、皆が寝静まった時にだ。前に遅くまで呑んでいた次郎太刀に見つかり誘われていたのを見たが、上手くかわしてそそくさと部屋に戻っていた。きっと独りで呑むのが好きなのだろう、とその時は解釈したが、最近独りで呑む様子は溜め息が多いようだった。

どうして俺がこんなに詳しいかと言うと、俺の部屋の前−主の部屋の前の縁側でもあるが−で得々と呑んでいるからだ。初期刀でもあり近侍でもある俺は、主の隣の部屋を自室としている。これは「近くに待機しないと近侍としての意味がない」という主の意見だった。近くに居れば対応出来ると言うのは同意件だが、主の私生活まで拘束されるのでは、という懸念点があった。しかし、私生活も仕事もキッチリ分けるような人であった為、その懸念点はすぐに払拭された訳ではあるが。

話を戻そう。その日も主は夜酒をしていて、たまたま厠へ行く際にばったり出会ってしまった。なにも言わずに部屋に戻ろうとした時、主がふと声を上げる。

「今夜は月が綺麗だね、山姥切くん」

そう言って少し笑んで「少しだけ、付き合ってくれないかな」と続けた。

「アンタの命令だからな…一杯だけだぞ」

主は自室からもう1つ、グラスを持ってきて自身のボトルから注ぐ。注がれた酒が器の中で波紋を広げる。一杯だけだ、と言った為かなみなみと注がれた。すぐに帰すつもりはないらしい。

酒の肴のつもりだろうか。主は拙い呂律でふわふわ話した。本丸であった出来事−畑仕事を手伝ったら雑草の他に芽を摘んでしまったとか、刀装の特上が出来たとか、遠征部隊が摘んできた花が可愛いだとか−をゆっくり話し出す。その声が心地よくて、耳を傾ける。

「どうしてアンタはいつも夜酒をするんだ」

気まぐれだったのか、酔ってしまったのか、単純な疑問だったのか。その時の事は覚えてはいない、が、するりとその言葉が口を突いた。

「やっぱり山姥切くんにはバレてたかあ」

にへら、とだらしない顔で笑ってから「……うん、まあ…呑むことが好きだからかな。月を見ながら、は 自然と落ち着くから、っていうか」と、言葉を濁す。

「じゃあ、どうして現世から帰ってきた時だけなんだ?」

しんとした沈黙が訪れ、闇が空気を包む。
不味いことを聞いたか。謝罪しようとすると主が先に口を開く。

「…現世にね、」


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