冬島の海域に入った途端、寝床から出るのが辛くなって寝坊することが多くなったわたしのもとにやってきた目が覚める鮮やかなオレンジ色の髪の美女。

「ちょっとなまえ!!いつまで寝てるのよ!朝ごはんできてるってサンジくんの声聞こえなかったの!?」

さっきから何回起こしたと思ってんのっっっ!!!と思い切り布団をめくられた。寒い…

「…ん〜…ごめん…ナミ…」

 何とか身体を起こして、おはよぉ…と言ったところで、ばちんっ!と両頬を挟まれた。

「もうとっくにみんな朝ごはん食べ始めてるわよ。食いっぱぐれたくなかったらさっさと起きる!」

 そう言ってナミはさっさと部屋を出て行ってしまった。
 ナミに挟まれた頬を摩りながら、おそらくルフィから私のご飯を死守しているサンジくんの姿が目に浮かぶ。
 慌てて着替えて賑やかなダイニングへ早足で向かった。



「ごめんねサンジくん、昨日も今日もご飯に間に合わなくて…」

「気にしないで、なまえちゃん。おれの方こそすまねぇ、ルフィのやつ、一瞬の隙に…」

 私より申し訳なさそうに肩を落としてから、新しくご飯を作り始めようとするサンジくんに慌てて声をかける。
 寝坊したのは私の責任なのにこれ以上サンジくんの手を煩わせるのは申し訳なさすぎる。

 結局「おれがなまえちゃんに食べて欲しいんだけど、ダメかな?」というサンジくんに、わたしは首を縦に振るしかなかった。
 朝が弱いなんてかわいいなぁ〜とハートを飛ばすサンジに耳が赤くなる。
 苦笑いを浮かべて誤魔化すのが精一杯だ。


「冬島の海域を抜けるまでずっとあの子の目覚ましかしら」

 うんざりした顔でコーヒーを飲みながらナミはロビンに不満を漏らす。

「あら、目覚ましなら なまえにぴったりなものがあるじゃない」

ほらあそこ、もロビンが指差す方向に目を向けたナミが、あぁっ、と悪戯に笑った。



ーーー遠くで声を掛けられた気がする…ナミかな…?

 少し浮上した意識は布団の暖かさに埋もれてしまう。それに何故だか今日は頭を撫でられているような心地よさも加わり、寝床への引力が増している。
 無意識に掴んで擦り寄ったものからは美味しそうな匂いと苦い匂い。


ーーなまえちゃん、

 密かな思い人の声がした気がする。
夢に出てくるなんて今日なんて良い日なんだろう。
もう少しこの夢を見ていたくて更に布団に潜り込んだところで、

「なまえちゃん、朝だよ。」

 起きて。

 耳元ではっきり聞こえた音が鼓膜と心臓を震わせた。
 ぱちっと開けた目に飛び込んできたのは寝起きには眩しい金色の輝き。

「おはよう。なまえちゃん」

そこには髪色に負けない眩しい笑顔のサンジくんがいた。


「…………っっっ!わぁぁぁああっっっ!!!」

 驚きすぎてベッドから転げ落ちそうになったところを、慌ててサンジくんが掴んでくれたが、頭は混乱したままだ。

「なっ…なんっ…なんで、サンジくん…!?女部屋だよ!???」

「なまえちゃんが起きてこないから起こして来いってナミさんがね」

 ということは、寝顔を見られていない訳がない。
 恥ずかしさに布団を頭まで被ろうとしたが、掴まれた腕によりそれは叶わなかった。

「サンジくん…手…」

 離してと言い掛けて、迷った。
 顔を見られるのも恥ずかしいのに、離れてしまうのはもったいないような気になった。

 掴まれている腕を見たまま、次の言葉を紡げずにいると、ふいにサンジくんの手がするすると手のひらまで降りてきた。
 手の動きを追った目線の先にサンジくんが優しく微笑んでるのが見える。

「おはよう、マイプリンセス」

ちゅ 

小さく音を立てて手の甲に唇が触れた。


 暫く停止した思考が動き出すと同時に、全身の血が顔に集まってるんじゃないか、という程に一気に赤く、熱くなる顔。

 そんな私の様子を見て、サンジくんは満足気に笑ってわたしの手を離した。それからドアの前まで進むと、こちらを振り返って言った。

「熱が冷めたら出ておいで」
 なまえちゃんの可愛い顔は独り占めしていたいからさ

 パタン…と閉じたドアを茫然と見つめ赤くなった顔を手で覆う。

「なにあれ…」

 火照る顔を布団に埋めて、ぽつりとこぼれた言葉は布団に吸い込まれる。
 代わりにどくどくとうるさい鼓動の音を嫌というほど聞いていた。



「サンジくん、遅かったのね。サンジくんが起こしてもすぐには起きなかったか…」
「いやぁ、もうすぐ来ると思うよ。」

…そう?と怪しむ目付きでナミはサンジを見る。
 逃れるようにキッチンへ向かったサンジに聞こえるか聞こえないかの声で「これは次から有料だわ」と呟いた。

 

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