「んナミすわぁ〜ん♡本日のおやつです♡」

 くるくる回っておやつと飲み物を溢さず運ぶサンジは本当に器用だなぁ。と感心する。
 ナミにひとしきりでれでれした後は、
アクアリウムバーで読書をするロビンのところへおやつを運びに行くのだろう。

 ルフィ達と釣りをしながら今背後で流れていく日常に少し目を向け、視線をまた海に戻した。
未だ無い釣果に欠伸が漏れる。

「なぁ、お前はサンジのあの病気に妬いたりしねえのか?」

 投げかけられた問いに顔を上げると、
私と同様に竿の引きを待つ狙撃手が呆れたような顔でこちらを見ていた。

「うーん…出会った時からあんな感じだし、特には…」
「でもよ、普通恋人同士なら、私だけを見て〜、とか他の女にでれでれしてんのいやなんじゃねえの?」

 ウソップがテンプレ通りの女の気持ちを真似したもんだから、正直気持ち悪い。
どうやら声に出ていたようで「なにぃ!?」と睨まれた。

「ごめんごめん。うーん…でもサンジが女の人にメロリンして無かったら、偽物なんじゃないか疑っちゃいそうだなぁ…。やっぱり女の人に優しいのも含めて好きになっちゃったから、どうしようも無いかな。」

 自分から聞いたくせに、若干うんざりした顔で
「あ〜、そりゃあごちそうさま」
とまた海に向き直るウソップ。
嫌なら聞かなきゃ良いのに。失礼なやつだな。

 ウソップの疑問も側から見たら正常だと思う。

 だけど、ちゃんとあるのだ、恋人としての特別が。



「なまえちゃ〜ん!!お待たせ致しました、あなたのサンジです♡」

 2人分のおやつと飲み物を載せたサンジが恭しく礼をして手を差し伸べてくれる。
 釣竿を片付けてからその手を取り、船縁から降りて彼のもとに近づくと手の甲に口付けを落としてくれた。

「今日は天気がいいから甲板で食べようか」
「うん。今日のおやつ何?」
「タルト・タタンだよ。りんごのタルト。
じゃあなウソップ、野郎どもの分はダイニングに置いてあるから好きに食え。」
「へーへー」

 先程よりもひどい、砂でも吐きそうな顔でのろのろ釣竿を片付け始めるウソップに
「せいぜいルフィに食われないように早く行けよ」と呟かれた忠告。
 ルフィの姿が見えない事を認識し大慌てでダイニングに向かって行った。


 毎日みんなの為に忙しいコックさんを独り占めできる時間。
朝食の前、おやつの時間、次の日の仕込みが終わった後。
 それぞれ少しずつだけれど、その時だけは彼の視線も、表情も、かけられる言葉も全て自分に向けてくれているのだと思うと心に幸せ物質が注がれるように満たされる。

 例えば、ティーポットを持つ細くて綺麗だけど骨張った手も、タバコを吹かすときの伏し目がちの表情も、美味しいと伝えたときの嬉しそうに笑う可愛い顔も今は独り占め。

「なまえちゃん?」

見つめすぎてかけられた言葉に、数秒遅れて気づいて、

「ごめん、なんだっけ」
「いや、俺の顔に何かついてる?」
それとも見惚れてた?とでれっと顔を崩すサンジに、

「うん、見惚れてた。」
「サンジのかっこいい表情を全部映像電伝虫みたいに脳内に記録していつでも再生できたら良いのに」
見逃してしまっているかもしれない表情まで、鮮明にいつでも思い出せるように。

 真面目な顔でそう返すと、サンジは驚いた顔でたばこを落としそうになっていた。
 それから少し赤い顔で
「なまえちゃんてたまに豪速球ストレートを投げてくるよな」
不意打ちは反則だ…。
 そう呟いて、心を落ち着かせるように、ゆっくりと紫煙を吐いた。


 別にそんなのに記録しなくてもさ、ティーカップに口を付けようとした時に今度はしっかりサンジの言葉を捉える。
 目線だけそちらにやると先程とは打って変わったにこやかな顔をしたサンジがこちらを見て言った。

「いつでもどこでもずーっとそばにいてくれたら見逃すこともないんじゃないか?」

 ずるいのはサンジの方だ。
そうしたくても理性が邪魔をする私の性格を分かっているのだろうか。

 正直に答えるのが癪で「考えとく」と返して、再び紅茶を口に含んで意地悪く笑うその顔もしっかりとまぶたに焼き付けておいた。




 

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