お風呂上がり、お水を飲みにキッチンに寄ると
「今日はカモミールティーも一緒にどう?」
と提案されて、目の前の黄金色のお茶が湯気とともにほのかな甘さを鼻に届けてくれる。

 そっと口に含んで香りと共に飲み込めば、じんわり心まで溶かすような暖かさに、息を吐いた。

 サンジは本当に人をよく見ている。

 サンジのかけてくれる言葉は、だいたいいつも自分でも気付かない間に欲しがっているものだったりする。

 手元から目線を上げれば、再びキッチンに戻って何やら作業の続きをしているサンジがいて。
  
(…明日の仕込みかな?)

 まだコンロには火がついていて、鍋がコトコトと音を立てている。


「サンジ」

 カウンターをぐるりと周り、調理しているサンジにちょっといい?と声をかけると作業の手を止め不思議そうな目でこちらを見る。

「どうしたの?なまえちゃん」


 唐突に、ぐいっと私の頭より随分高いところにあるサンジの後頭部に、手を回して引き寄せた。

 目を見開いて驚くサンジをよそに体勢をそのままに、違和感に距離を詰めるのを止めた。

「うーん…」

(…何か違う…
これじゃあいつもと変わらないな…)

 違和感を解消したくて、サンジの頭から手を離してぐるりとキッチンを見回す。

 目に入ったあるもののお陰で、違和感の正体を思いついて、目当てのもののところまで移動した。

 とん、と自分の目の前に置かれたそれに少し顔を赤くしたサンジがますます困惑した様子でおもしろい。

「えーと…なまえちゃん?何か付いてた?」

「ううん」

 短く答えて持ってきた椅子に登る。
立ち膝になるといつもと景色が逆転して私がサンジを見下ろす形となって、

「うん!よし!」

一人納得する私に、全く行動の意図を掴めていないサンジを、上から包み込むように抱きしめた。


「いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう。いつも大事にしてくれてありがとう。サンジが生まれてきてくれ本当に嬉しい」


よしよし、と子供を慈しむように丸い後頭部を撫でる。


 腕の中のサンジが身を固くして、ただされるがままにされているのが不思議だった。

 いつも身体をくねらせながら「俺の胸に飛び込んでおいで、さあ!」とか言っているのに。


 反応の無い事を不安に思って身体を離そうとすると、降ろされていたままだったサンジの手が私の腰に回る。

「ごめん、 なまえちゃん…」

「うん?」

「…もう少し、このままでもいいかな…?」

 見られたく無いかのように、私のお腹に顔を埋めるサンジに、できるだけ彼を包めるように大きく両手を広げてから、もう一回ぎゅうっと抱きしめた。

 

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