泣けない子供
 彼は自他共に認める負けず嫌いな、幼稚な人だ。
 それは長い付き合いで、何度も改めて痛感させられた。

 だが、やはり彼は幼稚だけれども、様々な経験を積んできた大人なのだ。

 思った事を全て言う訳じゃないし、全てを自分で解決しようとしまう癖もある。

 私は最もその癖が嫌だった。


「ねぇ、L。また何か考えてるでしょ?」

 ソファに腰を下ろし、体をLに預ける。私はLの顔を覗き込んだ。

 最近のLはふとした時、いつも切ない顔をして何かを考えて居るようだった。

 一応これでも長い付き合いの恋人同士なわけで、出会ったときと比べればLも随分と私に本音や不安を言うようになった。(まぁ私がそうさせたのだが)

「────あぁ、……またぼうっとしてましたか」

 そう言って薄く笑うと、もうすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干した。

「ぼうっとしてたんじゃなくて、何かを思考してた様だけど……?」
「……名前はそういう事には敏感ですね」
「あなたの事を良く見てるからよ」

 真っ直ぐに真実を伝えると、Lは目を細め微笑した。

「名前。私がどうしてこの座り方にしているのか分かりますか?」

 Lは元々かなり湾曲した背を更に曲げ、私の顔を覗き込んだ。

「その座り方じゃないと推理力が40%減なんでしょ…?」

 そういえば最初にこの座り方を見た時は驚かされた。所構わず人の目なんて気にせず、自分の納得いく座り方で座る彼は、やっぱり子供だと思った。

「はい。こうする事によって心音が聴こえて精神を統一する事が出来ます。つまり、集中できるのです」

 精神統一、ねぇ……

「一定に刻む音があればいいの?だったらメトロノームでも置く?」

 私は意地悪く笑った。

「いいえ、心音が良いんです。生きてると実感出来ますから」


 その言葉から、Lが多くの、私にはとても背負いきれないものを背負ってるのだと思い知った。「もし私がこの世界から消えた時、私は元から居なかった者にされるんでしょうね。
……名前、私は今、ここに居ますか?生きていますか?」


 それはLの心からの叫びだった。


「──ええ、貴方はここに居るし、ここに居て欲しい」


 人は二度、死を迎えるのだと本で読んだことがある。

 一度目は物理的に。
 二度目は皆がその人を忘却した時に。

「私は貴方を、Lを死ぬまで忘れない。ずっと。そして私が死んだら……貴方を探してまたLと過ごすわ」


 私はLみたいに世界なんて大層なものは救えないけれど、この目の前に存在する、負けず嫌いで、幼稚で、人前で無くことなんて出来なくて、甘えられない意地っ張りな、それでも大好きなこの人だけは救いたいと、救おうと思った。



泣けない子供を抱き締めた



(…まぁ、名前が探し出せなくても私が直ぐに貴女を見つけてみせますよ)
(ふふっ、それは頼もしい)
(ええ…なんせ名探偵ですから。貴女を見つけるのは、得意中の得意ですよ)



END
愛してなじって罵って