嘘を許すから愛を許して
「もうチョコラータの患者でも、部下でもないんだから。」

 叩かれた頬がジンジンする。投げやりな言葉が出てくる喉は内側から熱がグッと込みあげてきて、それを押さえ込めようと唇を強く引き結ぶ。あくまで強気な態度で私はチョコラータを睨み続けた。
 チョコラータは冷めた目を私に向ける。「お前如きが。生意気な口をきくな」とでも言いたげに。

 チョコラータが医者の時代には探求者とその被験者として、セッコと共に行動していた私達3人はこの組織に入ってからは少しずつボスからの仕事に違いが見えて、一緒にいる時間は減っていった。
 チョコラータとセッコは行動に規制を掛けられながらも時折ボスからの命令で裏切り者の始末をしたりしている。対して私は他のチームのサポート役や組織の事件の隠蔽といった雑務を暫し任されていた。チョコラータと離れ、任務をこなしていくうちに私は私というものを思い出していった。

 自分は何も出来ない人間なのだと教えられ、チョコラータの顔色だけを窺い怯える日々。そんな性格もここに入ってから自分一人で言われた事を達成するにつれ、自信をつけていった。
 時たまよしよしと私の頭を撫で無限の甘い言葉を投げてくれる日は、私にとって幸せな瞬間であったがそれも今となってはその感情はチョコラータに対する恐怖心からの感情なのではないかと思い始めている。

 そんな時に舞い込んだのが、組織の裏切り者として疑われている者への偵察を兼ねた暗殺だった。表に出ていない組織が関わった犯罪やらの証拠を握っていないか、その男に接触し調査をするという内容。私は勿論引き受けた。今までとは違う大きな仕事に、組織に入ってからの私の全てを強く肯定された気分だった。

「お前に権利も選択も無い。いいか。二度と私の許可なく行動するな。お前はボスのモノでなく、俺のモノだ。俺がボスにお前を貸しているのだ。……ボスもボスだ。そんなもの、私に頼めば直ぐに吐かせるというのに。」

 そう言いながらチョコラータは受話器を手に取った。

「何するの!」
「ボスへ電話する。」

 その言葉で私は弾け飛ぶ様にチョコラータの元へ走り、手にしている電話を奪うために掴みかかった。

「なんで!なんで私の干渉をする!!私がどうなろうが何とも思ってないくせに!こんなふうにして!この悪魔!化け物!!!」
「知ってるさ。」

 チョコラータはにやりと笑った。

「お前は変わったと思ってるのかもしれないが、何も変わっちゃあいない。現にこうして毎日私の元へ自分の意志で戻ってきている。お前は昔から、心の奥底の意識の働かない所で思っているんだよ。絶対的な力で支配されたい、って。」
「そんなわけない……!そうさせたのもチョコラータのせいよ!」
「さて、そんなお前が男に自ら誘いをかけて腰を振れるかな?」

 大きな手で首を掴まれ思わず嗚咽を漏らす。チョコラータの腕に爪を立てるも本人はそんな事は全く気にしていない様子だった。

「ひとつだけ選ばせてやる。」

 その瞬間私は頭を強く床に打った。チョコラータが倒れた私に馬乗りになる。髪を掴まれ無理矢理目を合わされた。チョコラータの顔が近づき、ゆっくりと囁かれる。

「今此処で私に抱かれるか、組織の都合の良い女とされこれから沢山の男に抱かれるか選べ。」


 この選択は私の自尊心を壊す為のものであって欲しい。でないと私は、勘違いしそうになるから。

END

20180509
top
愛してなじって罵って