幸せのどん底 何気ない不幸
 夏は終わり天気の良い昼間でも肌寒さが感じられる、そんな晴れた秋の日だった。

「私は、そういうはいいの。」
 努めて明るく笑い、私は同僚の友人を祝福した。

「だからさっき心配そうに貴方のこと見てたのね。お互い好きだったなんて全然気がつかなかった」
 そう言って私はもう一度、真ん中で嬉しそうに笑っている友人におめでとうと伝える。
「ねえ、名前もお似合いだと思うでしょう?」
「ええ。2人とも優しいし、色々と波長が合うでしょ。」
 するとまた2人はわっと楽しそうに話をし始めた。私はそんな彼女達をにこやかに見つめて聞き役に徹する。

 昼食を終えその後の午後はどこか気分が晴れず、もやもやする気持ちを無視して私は仕事に没頭した。

 帰り道、2つの形の違う鍵を見ながら私はどっちを使おうか迷っていた。ひとつは私の家の鍵、もうひとつはチョコラータの家の鍵。


「よお。飯なら食っちまったぜ。出前はとるなよ。冷蔵庫の中なら使っても良いが……。」

 チョコラータはリビングで医学書らしきものを読んでいた。傍には淹れたばかりの珈琲と、見ていないテレビが点いていた。
 私はチョコラータの言葉を無視して彼の隣に座る。革張りのソファが音を立てた。

「また新しい計画?」
「試したい事は山ほどある。」
「ボスに叱られるわよ」
「だから?」

 チョコラータが顔を上げた。私のことを詰まらなさそうに見下ろしていた。

「たわいもない話は嫌いだった?」
「嫌いだな。たった今、お前の所為で嫌いになった。」
「……………ふぅん、……ごめんなさいね。」

 私は視線外すとソファに寝そべり、また今日の事を思い出す。

 友人が同期の男性と個人的なお付き合いをしていたなんて知らなかった。相手の男性とは私も彼女達と一緒に世間話をする事はあったが、まさかお互い想いを寄せていたいたなんて事も。
 三十路を目前にして周りは次々とパートナーを見つけていくのを耳にする度、私は毎回立ち止まり考えさせられてしまう。

─────「名前はいないの?貴方、浮ついた話なんて一切ないんだから。」

 友人から言われた言葉。

 その後の私の言葉も2人がお似合いだというのも全て本心だ。………本心の、筈だ。

 結婚やお付き合いなんてこの男を好きになってからとっくに諦めた。彼の傍に居られればそれで良い。私がチョコラータの一番傍にいる女、それが事実でなかったとしても、わたしが今そう心から想えるのだからそれで良い。

 愛やチョコラータとの甘い将来、体の関係なんて何も望まない。それを望めば捨てられるのなんて目に見えているからだ。

 私は今まで何度も立ち止まって自分の気持ちを確認しては、結局その考えに至ってしまう。


「……ねぇチョコラータ、」

 重い本が閉じられる音がした。どうやら私の話を聞いてくれるらしい。私は体はそのままに目線だけチョコラータに向けた。

「浮ついた話が一切ないけど、誰かと付き合ったりしないの?」

 こんな質問をするのにドキドキするような、そんな可愛らしい気持ちはもうない。期待もなかった。ただチョコラータがどう答えるか知りたかった。

「嫌な癖に。」

 コーヒカップに口をつける一瞬、チョコラータは意地の悪い顔を浮かべた。
 私は瞬きも忘れて魅力的な彼の喉仏の動きを黙って見つめる。一瞬体が熱くなり、心臓が跳ね上がった自分を情けなく思いながら。

END

20181119
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愛してなじって罵って