「なにやってるんスか、名前さんよぉ〜……」
昼頃に降った雨は地面に落ちる頃には雪に変わって数センチ程度の積雪をもたらした。会社の飲み会ですっかり酔っ払った私は、道の途中で倒れてこの心地の良い冷たさに溺れていた。
「ったく、危ないだろ。」
鞄を小脇に抱えると器用にも仗助くんは私をおぶってくれた。首に腕を回そうとするも体が大きく、このままでは仗助くんの首を締めてしまいそうなので私は彼の制服に掴まる。
頬を背中に寄せれば、冷気で冷えていた制服は私の温度ですぐに同じ温度へと変わった。
「大人なんだからあんな所で寝ちゃダメっスよ。」
「大人じゃあないもん!」
「あーそうかよ!………前は大人だって言ってた癖によォ、」
仗助くんの言った前とは、夏休みの時だろう。お盆の時期に私は仗助くんに頼まれて時間のある時に彼の勉強をみていた。ご近所の可愛い男の子として前々から親しくしていたが、この勉強会が私と一緒にいたいが為の口実だと知ったのは彼に告白されてからだった。
「大人と子供じゃあ難しいのよ。」
確かそんな事を言った気がする。
それから私の方は仕事が始まり、暫くして仗助くんは学校が始まった。私達は顔を会わせることも滅多になくなったし、何となくお互いに避けていた面もある。
「俺さぁ〜、アンタに振られたわけよ。」
「ううん?」
「そりゃもうすげーショックだし、好きって気持ちがなくなるまで会いたくなかった。」
「うん」
「なのに何であそこで寝るてるんだよ。何で俺は声掛けちゃうんだよ。」
「なら声掛けなきゃ良いじゃあない。今からでも降ろして1人で帰りなさいよ!」
彼は怒っているのだろうか。それとも自身に対して情けなく思っていたりするのだろうか。
そうしたいのは私の方だとばかりに彼の背中で暴れる。その時、閉店した店の窓に私達が映った。
大きな男性の背中で暴れる私。そんな私に悪態吐きながらも、仗助くんは嬉しそうに笑っていた。
不覚だった。
完全にやられた。
「アンタってほんと、ダメな大人だよな。」
仗助くんは気づいていないのだろう。
私が仗助くんの顔を見れている事も、君がどんな顔をしてそんな言葉を言っているのかも。
冷静になれ。冷静になれ。冷静になれ。
私は大人だ。大人にならなくっちゃあいけないんだ。
溺れて落ちてしまいたくなるこの気持ちが自分を苦しめる。声を殺して泣きながら、私は彼の制服を力一杯握り締めた。
END
20181119