セッコ
デートは何時も、お金がかからないからという理由でわたしの家だった。
勿論その理由や、家が良いと頑なに希望するのはわたしだけの事で、セッコの方は分からない。
ただ、彼にはお金が無かった。
付き合い始めた当初は恋人らしく外でデートをしていたが、その代金をわたしが支払おうとすると彼はとたんに不機嫌になる。だからって彼には払うお金は無いのだ。だから私達はしょっちゅうその事で喧嘩をした。
そしてそれが理由で別れた。
数年後、友人伝えで彼の事を久し振りに耳にした。どうやら今では良い仕事をみつけたのか良い暮らしをしているようだった。
これであいつと喧嘩しなくて済む、そんな事を言っていたらしい。
遅いのよセッコ。もうわたし、結婚しちゃったよ。
ダニエル
浮かれ立った街と人をかいくぐり、あたしとダニエルは無言で歩いていた。
後ろのダニエルに構わず怒りに任せ歩き進め、時々ショーウィンドウを横目で盗み見てはダニエルが付いて来ている事を確認する。
まさかこんな今年も終わろうかって時に、自分が恋人に別れを告げるだなんて一体誰が予言出来ただろう?
「もうここで良いから。」
この交差点を真っ直ぐ行けば自分の家へと着く。夕方にもなっていない空が、更にあたしを腹立たしくさせた。
「最後にやるよ。」
ダニエルは小脇に寄せられた雪で、小さな雪だるまを作って渡してきた。
馬鹿にして!
そう言ってやる前には彼によって手のひらに乗せられてしまった。どうすれば良いのか迷い、手のひらの小さく見窄らしい雪だるまを睨みながら振り返り、交差点を渡った。
そこら辺に捨ててやろうとするも、段々と手の温度によって溶け出す雪だるまと比例して、あたしの怒りも萎んでいく。
折角だし、最後だからこれが溶けるまでは見届けてやろうかな、とセンチな考えまで浮かんできた。
家に着いてテーブルにそれを置く。キッチンで淹れた珈琲を持って来たとき、あたしは雪だるまに何か埋められているのに気が付いた。
「負けた!」
自分は彼の賭けに負けたのだ。指輪を見つけて敗北を知ったときには、あたしは既に家を出ていた。
露伴
「ああ終わらない!」
そう言って名前はテーブルに突っ伏した。
「おい、使わないならキャップを付けろよ。テーブルが汚れるだろ。大体さ、もっと早めに書いとけば、今頃こんな事にはならなかったんだぜ?」
「送り先と一言だから直ぐに終わると思ったのよ……。」
確かこいつ、今年の元旦に計画を立てて生活する、みたいな事を目標にしてなかったか?
目を細めて僕は無精な彼女をそう言ってなじる。勿論これは僕と彼女のよくあるじゃれつきであって、本気ではない。
「もういっそ、元旦に直接出そうかな……」
「なにッ!?」
僕は身を乗り出した。
「今なんて言った!?元旦にまわる?ダメだ!そんなの僕は許さないぜ!」
「なんで?」
「君がいない元旦なんて嫌だからさ!」
名前は何故か言葉に詰まらせ、少しするとまた新たに提案してきた。
「じゃあ一緒に元旦に挨拶も兼ねてまわりに行こっか。」
「もっと御免だね。どうせキミ、アホのじょーすけにも出すじゃあないか。」
僕は名前が送る予定の人の住所等が書かれたリストと、終わっていない方の束から一枚ハガキを取った。
「大体、僕は人が嫌いなのは知ってるだろ。元旦は君と二人でいたいんだ。ほら、宛名は書いてやるからさ……。」
そう言ってやれば名前は憎らしい程可愛い笑顔を僕に向けるのだ。
チョコラータ
「我慢できない!」
私はそう叫ぶと家を出て、必要な調味料や足りない食材を買いに行く。家に帰るとさっきと同じダイニングの椅子に座っていたチョコラータが不思議そうに私を見てきた。
チョコラータの視線を無視して私は記憶を手繰り寄せながら出汁をとり、具材を煮て味噌をといだ。出来上がったのは豚汁。
日本に居たときは冬になると必ず両親が作ってくれたものだったが、ここに来てからは何年も口にしていない。
匂いを嗅いだだけでも口の中から涎が出てくる。私は適当なお皿にそれをよそって椅子にも座らずひとくち。
「美味しい!やっぱりこれよ!」
「なんだこれは……」
肩口から顔を覗かせたチョコラータに驚き、私はやや後ずさった。彼は気にせずに私の手からお皿を奪うと同じ様によそってひとくち食べた。
「へぇ、旨いじゃあないか。」
チョコラータの目が細まった。どうやらお気に召したらしい。
私はその光景をぼんやり見て、可笑しくなって声を上げて笑った。
「急になんだ、可笑しな奴め。私が誉めるのは珍しい事でもないだろう。」
どうやら私のこの反応は、彼には誉められた事に対する喜びだと見えたらしい。
「違うわよ!」
そうじゃなくて……
貴方と豚汁って、すっごく似合わないわ!
END
20180112