海の底に沈むにはまだ足りない
 バレンタインなんて嫌いだ。

 お気に入りのお店はカップルの予約でいっぱいだし、街は幸せムード。自分の立場を痛いくらい知らしめられて、心がささくれる。

 ここ一週間暇さえあれば開いて確認する携帯には目当ての名前が無くてため息が出た。


 チョコラータに恋人なんてモノを求めてしまう私は滑稽な女なんだろう。それでも思ってしまうのだ。
 意地悪な言葉の中に何処か柔らかさが含まれたり、思い遣りなんて微塵も感じないセックスで彼の私に対しての欲が垣間見えたとき、

少し、ほんのちょっとでも、彼と私は同じ気持ちなのではという淡い期待と幸せを感じてしまう。



……会いたいな。



 何度もチョコラータの家へと足が向き、そしてやめた。
 ふらふらと足元を迷わせながらようやく家に着くとよく知る車が停まっていて、大袈裟なくらい胸が跳ねる。

「随分と浮かない顔じゃあないか。……なんだ。それは明日の分か?」

 スーパーで買った弁当を見られていることに気付き、恥ずかしくなった私は袋の口をぎゅっと掴んだ。会いたいと思った人はぱりっとしたスーツを着ていて、仕事帰りでぼろぼろの自分がみすぼらしく感じてしまった。

「それより腹減った。さっさと行くぞ」
「行くって……」

何処に。

 そう問えばチョコラータは驚いた顔で私を見つめた。

「なんだ、今日がバレンタインだって忘れてたのか。」

 車に乗ると仄かに薔薇の香りがする。それを渡されるのは何時だろうかなどと邪なことを考えながら、今日この日を感謝する現金な自分を笑った。


END


20170214
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愛してなじって罵って