溺れて死んだら魚になろう
 女は我が儘だった。晩飯はどうしようかと言えば、しょっちゅう新しく出来た店の名前を出してはそこへ行きたいとねだり、デートをしたいと部屋に籠もる私に車を出させる。
 だが彼女のそれは全て限定的な我が儘だった。彼女の思う、「これなら私が叶えてくれるであろう願い」をきちんと見極めてものを言ってるのだ。
 私が本当に忙しい時に何かを願ったり、金のかかるモノをねだるなんて事はしない。しかし彼女の目は私に何かを期待していたし、私はその目にときおり苛立っていた。彼女が果たして私に何を期待しているのか、それが何なのか分からない程私は色恋に疎くは無い。

「仕事帰りにチョコラータに会えてしかもここでディナー出来るなんて今日は良い日だったな」

 上機嫌に店を出た名前は私の腕をとるとそんな言葉を零す。住宅街にひっそりとあった店は、この時間は人通りも無くて声がよく通る。

「駐車スペースが無いのには困ったな。お陰でこうして暫くあるかなきゃいけない」
「完全に近所の人用のお店だったね。アリ?ナシ?」
「無しだろ。アヒージョはいつも行ってる所がうまいな。」
「また行きたいね。」

 その言葉に返事をしないでいると、私の腕にまわっている手に少しだけ力がこもった。

「早く乗れ」

 私の誘いに彼女の瞳は揺れたが、首は横に振られた。

「ありがとう。今日は楽しかったよ。じゃあまた。」

 そう告げると足早に駐車場を去った。

なら何故ここまで着いてきたのか。

 心の中で些か苛立ちながらそう毒づく。街灯はあるといえ、夜は暗い。治安の悪いこの街で、女が1人夜中に歩いているのを見ればどう思うか。

「ああ、クソ」

 きっとすぐに追いつくだろう。それくらいの我が儘をきいてやるくらいには、私は彼女を愛している。

END

20180307
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愛してなじって罵って