人は見かけによらない。
この言葉を誰よりも理解しているのは私だと自負する。
成績優秀、市から表彰される程の人格者、医者となり病院の中でも着実に地位を築き上げている。
しかしその裏では嘘のカルテを作って好奇心の赴くままに人体実験を繰り返す。それが私の幸せであり、それを失わない為に患者の死と私を繋ぐものを消すのには一番注意を払った。そのお陰か、多くの外科医が怨恨で訴訟されるなか、私は今まで一度も訴えられる事はなかった。本来であればこの私こそが法廷で裁きを受けるべき人間であるにも関わらず。
「緊張しているのか?」
「いいえ…………やっぱり、緊張してるかも。」
私の部屋に初めて訪れた女はこの先の展開を分からない程純な者ではないらしい。いつも寡黙な女の口にワインを勧めれば、その口からは私への愛の言葉が次々と出てきたし病院で私を追う目は今はより情熱さが増していた。
プライベートを余り明かさない私は他の者よりも断然、周りから余計に詮索されていた。それを少しでも緩和させる為に私は手短な女を彼女にし、様々な憶測をつける者に満足させられる様な最もたるものを提供してやった。
大人しいく面倒臭くないこの女は利用するには丁度良かったし表向きの私の彼女としても相応しかったが、こうして二人でいる空間は退屈でもあった。気を使う相手が変わっただけではないかと、この関係を続けていくことに疑問も持ち始めてもいた。
付き合って4ヶ月。女は私の家に行きたいだの言ってきた。変に断って不審がられても困るので私はそれを承諾した。
「おいで」
残ったワインを一気に煽り、私達は寝室へ向かう。キスをして、愛を囁きながらお互いの服を脱がせる。緊張しつつもこがれる様な手つきで女はボタンを外しシャツを脱がせると私の体をまじまじと見てコクリと喉を鳴らした。
「やっぱり、最高」
その瞬間私の意識は次第にぼんやりとして、私は反射的にベットに手をつくかたちとなった。
何か盛ったな。
そう言ったつもりだが、呂律が回ってうまく言えてないのか、女は質問には答えない。病院で見たあの寡黙で真面目な彼女からは想像もつかない、恍惚な笑みを浮かべながら興奮した面もちで女は指の腹を私の体に強く滑らせていく。皮膚の下の、骨格を確かめる様に。
「ずっと先生の骨が好きだったんです。やっと……やっとこの日がきた!!生き物を骨格模型にしたの、実はまだ猫しかないんですけど……痛くはしません。だから安心して眠って下さい。」
安心できるわけねぇだろ。
支離滅裂なこの女を殴りたかったが、今の私にはそれは難しかった。
人は見かけによらない。
どうやら私こそ、この言葉を理解していなかった様だ。
体の自由がきかないのを良いことに女は普段隠していた欲求を存分に私で満たす。目の前で私の鎖骨をなぞり、寛骨を舐って容赦なく指を噛む。
ぼんやりとした意識の水底で、女の表情と遠慮の無い愛撫、そして自身の下半身に集まる熱だけが鮮明に私の中で浮かび上がる。
つまり私は、彼女の本性にこの上ない魅力を感じていたのだ。
END
20180329