性格に多々難があるチョコラータだったが、育ちの良さは普段の仕草から滲み出ていた。テーブルマナーは完璧、何気ない走り書きの字は綺麗だし人前での表向きの時の会話も機知に富んで頭の回転の速さがよく分かった。
家の事を余り話したがらないチョコラータだったが、よく思っていないのは明白だった。昔の話をして欲しいと言えば上手くはぐらかされ、それでも時折ぽろりと出てくるチョコラータの両親は何時も彼の中で嫌悪され、否定されていた。そんな家や両親を否定するチョコラータの仕草から家の教えが滲み出ているのは何だか皮肉めいた感じがした。
本人に言って良いことは一つもないのもまた明白なので、これは言わない。
しかし私はそんなチョコラータも愛していた。過去を話したがらない人だからこそ、そこから昔の彼が見えたような気がして楽しくて、私は四つ葉のクローバーを探す子供の様に夢中だった。
話は変わってここにピザがあるとしよう。
ピザの正しい食べ方として一般的に店で食べる時はイタリア人はピザをくるくると巻き、ナイフとフォークを使って食べる。宅配だと手で持つのだが、チョコラータはどんな時でもナイフとフォークだった。
セッコはあの普段の野生さを裏切らず場所を問わず手で、私も日本の時と変わらず手で食べていた。
「手で食べた方が食べたって感じがするし、美味しいのに。」
私とセッコが決まってチョコラータに言う言葉だ。
家のオーブンで焼いたばかりのピザは熱く、切った所や食べた所から零れるチーズに、セッコは四苦八苦していた。
手についた油には気にせずその手でコップやテーブルに触れるセッコを嫌そうに見ながらもチョコラータはそれを咎めない。マナーを知っているがそれを人に強要したり人のやり方に口を挟まないのは彼の良いところだと私は思う。
「お行儀よくしちゃってさ。チョコラータらしくない。」
「食事にらしさを求められてもな。」
「セッコもそう思うよね?」
「お?うんうん!」
ピザに夢中のセッコは私の質問なんて聞いてないのだろうが、私の意見に賛同するのならそれでも構わない。
私がこうまでチョコラータに言うのは珍しい事だが理由は簡単で、チョコラータの過去を見れる仕草が好きな反面、私は過去を否定しながらもそれを捨てない彼に嫉妬していたのだ。
私に大きく影響を与えたのはチョコラータだと、私は断言する。チョコラータは自身が私を作ったのだと思っているのだろうが、正確には彼を好きだから私の意志で彼の喜ぶ私に近づけていったのだ。だからこそ、私もチョコラータに目に見える影響を少しでも与えたい。
それが愛の言葉も行為も無い、男女の仲というには余りにも欠けている私達の愛情表現なのではないかと、私は勝手に思う。
上手い言葉が出ない事をもどかしく思いながら、私は黙って食事を再開した。チョコラータもまたいつも通り音を立てずピザにナイフをたてた。
「今日はピザにするか。」
「へ、うへへへ……ドルチェもつけてくれんだろ?なあなあ!」
「いいぞセッコ。ただし夜も手伝うならな!好きなだけ頼め」
「絶対だからな!嘘吐いたら許さねえ」
チョコラータは何やらまた楽しい生命への探求が湧いた様で、その為の機材やらの買い出しに私達も付き合わされた。こういう日のチョコラータは機嫌も良く、私達にも何か買ってくれたり美味しい物をご馳走してくれるのでこの展開は実は期待していた。
行きつけの店で頼む物は大抵決まっている。席に着くとチョコラータは3人のメニューをウエイターに告げる。セッコは親鳥の持ってきた餌を待つ小鳥の様に、私は頬杖をついてそれを見ていた。
「ほらよ。」
「……ありがとう。」
お手本の様に私の為に切り分け取り分けるチョコラータにまた少し機嫌が斜める。口を尖らせちまちまと前菜を食べていると、セッコが声を上げた。
「なあチョコラータ〜。ナイフ使わないのか?」
「え」
声が漏れた。セッコの言葉に反射的に顔を上げてチョコラータを見ると手でピザを持っていた。
「なんで、」
「手で食べると旨いと言ったのはお前だろう?」
チョコラータは悪戯っぽく笑った。
END
20180527