プラタナスの木漏れ日


 パッショーネに入団したチョコラータとセッコは失った地位や被験材料の代わりがこんな素晴らしいもので良いのかと、笑いが零れた。

「カビというのはどの生物にも存在しているのだ。私のカビ化とセッコ、お前のその能力があれば全ての生命は私達の敵ではない!」

 楽しく談笑するチョコラータ達の前には皮膚がぐずぐすになった人間達が悶えていた。助けを求め言葉を発しているようであるが、崩れていく頬の皮膚はぷつぷつと音をたてながら千切れていき、出てくる言葉は「ああ」とか「う」とか、籠もった声となって、そして、消えた。

「カビ化した死体の射程距離は3mといったところかな。」

 セッコのビデオを奪い録画の出来に満足したチョコラータは辺りを見回す。最近はこうして適当な所に赴き適当な実験材料になる人間を探して、己のスタンドの能力や限界を調べていた。

「私の意志で人を選別してカビのパワーを抑える事はある程度可能だが、足だけ、上半身だけといった精密さはやはり難しいか。」
「なあチョコラータ」

 地下に潜ったかと思ったセッコが、傍の路地裏から女を連れてきた。先程の光景を見ていたせいなのか、女の足は動いていなくセッコが引き摺る形となる。

「おいセッコ。なんだそれは。」
「さっきの見られた。なあ、こいつ―――」
「助けて下さい!!あなた達も見たでしょう?!人が急激に溶けたように消えるのを!このままここに居て見つかったら私達まで殺される!!」

 ぐったりと地面にへたり込んだと思いきや、女は男二人にしがみついた。服をつかむ手も、声を殺しながら訴える声も力強く、先程の姿とは別人だった。
 女の気迫に少々驚きはしたが、直ぐにチョコラータは女の勘違いに気づきほくそ笑んだ。

 この目の前の死体を作り上げた当の本人達に助けを求める女は真実を知るチョコラータやセッコにとっては滑稽そのものであったが、女の擁護をするのであればスタンドなんて能力を使い、カビを増幅させ殺したなんて一体誰が想像出来るだろうか。

 縋る女の腕を掴み、チョコラータは女を支えてやった。それを見てセッコはどうすんだよといった視線を向けていた。
 チョコラータは微笑む。早速この馬鹿なこの女を連れ込みまた新たな実験として使おうと算段する。誰か人が通る前に現場を去り、穏便にこの女を連れたかった男は適当に彼女に話を合わせる事にした。

「確かに貴方の言う通りだ。突然の事で驚いていてね。近くに私の車があるんだが、一緒にどうです。送っていきますよ。」
「車で……」

 チョコラータの提案に女は些か眉を顰めていた。女のこの態度は不親切とも言えたが、男2人の車に女が一人乗るといった状況で疑わずにほいほい乗っていく女はこの国では相当な世間知らずであろう。

「この状況に応じた強姦目的かとお思いかな。」
「気分を害されたなら謝ります。」
「いいや。この訳の解らない状況であれば当然とも言える。恐らく貴方は何故ここに居たのかと思っているのだろうが、実は私達は医者でして……」
「え」
「残念ながら今手元にそれを証明する物は無いが、車の方に医療器具があります。それで信じて頂けるかは貴方にお任せします。」
「……この人達、貴方達にやられたんじゃあないですよね。」
「ええ。言った様に私は医者だ。何事かと職業柄駆けつけただけでして。」
「別に何か私にするとか、そんな事ないですよね。」
「ははは、勿論。」

 チョコラータは後ろのセッコに目配せする。チョコラータの企みに気付いているのかいないのかは分からないが、セッコはチョコラータに同調して首を頷かせた。

「なら申し訳ありませんが、近くまで送って頂けますか。」
「車はあそこですよ。」

 停めてあった車のトランクを開けて器具を見せると、女は納得した様に後部座席の方に促されるままに座った。チョコラータはここだと思った。

「セッコ」

 チョコラータの合図によってセッコは同じく後部座席に乗り込んで腕を掴み、筋肉質な腕を女の細い首に巻き付けて締めた。チョコラータはそのまま気にするでもなくドアを閉めると運転席の方に乗り込んだ。

「何もしないって約束したのに。」
「マヌケめ!そんな訳ねーだろ!」

 顔を歪めながら女は苦しそうにそう訴えた。その表情は何度向けられても己の心を満たしてくれるものだとチョコラータは思った。

「なあチョコラータ。先にお、俺が見つけたんだからよォ、実験に使って殺す前に俺の好きにさせてくれるだろぉぉぉ、」
「いいぞ〜、セッコ」
「へへ……ッお前の顔、けっこーさぁ、俺の好みなんだよな〜」

 腕の拘束を止めて女の顔を掴み、逃げる体をしっかりと自身の体と絡めて拘束する。下品な笑い声を上げて近づくセッコに女は腕でそれを拒絶した。セッコは少し面食らった顔を見せた。

「それ以上近付くんじゃねー!!このどぐされ野郎がァァーーッ!!!!」

 車内は一瞬で静まり返った。女のさっきまでの態度や顔からこの怒号を繋げる事は二人には到底出来なかった。

 カチャリ

 そんな音が聞こえた気がしたが、その音や何とも言えない違和感をセッコに伝える前に、相棒は行動を起こしていた。

「ふ、ふざけんじゃあねぇーぞおおおお!!このクソアマビチクソ女がぁぁぁあ!!!!!」

 殴りかかるセッコをみてチョコラータはスタンドを発現させる。セッコを止める為では無い。この訳の分からない違和感や不信感を消す目的として、そして何よりこの女はヤバいと、チョコラータの直感が訴えていた。

「!?クソ……ッ!スタンドが出ねぇ!!おいセッコ!!!」

 後部座席に目をやる。するとそこには二人とは違うスタンドが車内に存在していた。

「お、俺も出ねーよぉ。なあチョコラータ、どうするんだよ!これよォ……!」

 女の人型のスタンドには全身に鍵がくっついている。黒眼の存在しない不気味な目がセッコをジッと見つめ、大きな肢体がセッコの首を掴んでいる。一瞬のうちに立場は逆転していた。スタンドが発現出来ない原因はこのスタンドのせいなのは直ぐに分かった。
 チョコラータは足元にあるスペアの医療バッグを思い出す。

「金目当ての一般人か?いや……最初から俺達がスタンド使いだと知ってるって事は組織絡みの奴か。パッショーネ以外にもスタンド使いがいるのか?」

 自身の思考を言葉にする。これは状況把握と相手の気を少しでも逸らす為のまのだ。一瞬で良い。ほんの一瞬の隙があればメスで敵の喉元に突き立てられる自信があった。

「……まさか貴方、私に何かするつもり?また、約束を破ろうっての?」

 ガチャリ

 嫌な予感がした。まさかと思いそれを払拭する為に胸部に力を入れ息を吸う……が出来なかった。

「……ガッ…、」

 何時も無意識に出来ていた事が出来ない。スタンドを見るも全く動いた感じはしない。
 気道が潰れた様に、鼻孔や口に入ってくるく空気がそこから先に吸い込めなかった。硬口蓋が乾いて舌と張り付く。段々チョコラータにも女のスタンド能力が分かってきた。

「約束っていうのはね、規制や倫理や法律よりも尊いもので、守らなきゃいけないものだと思わない?自分の意志で結んだ約束なんだから、それを一番に守るべきよね。」

 女は不敵に笑った。
 女の手には型の違う鍵が3つ握られていた。

「ご挨拶が遅れましたね。パッショーネ所属の名前です。ボスからの指示であなた達のスタンド能力の制限と監視を頼まれました。ご質問は?」

 チョコラータが喋れないのを分かって尋ねる女の性格の悪さは流石ギャングといったところだった。それまで黙っていたセッコがここで声を上げた。

「ボスの指示?てめーデタラメな事いってんじゃあねーぞ!」
「本当ですよ。貴方達の目の余る勝手な行動を止める為に私がここに配属されたの。今までは良かったかもしれないけど、貴方達は今パッショーネの一員であり、その行動の結果が組織に結果になるのをきちんと理解してもらわなきゃ。まあ、ボスからは従わないなら殺して構わないって言われてはいるんだけど。」

 ギリ、と歯の軋む音が聞こえた。怒りの興奮と酸欠でチョコラータの意識は遠のきそうだった。

 名前は愉快そうに二人に問う。

「ひとつ約束してくれる?私を殺さないってこと。それがボスに対する忠誠の証だと受け取るそうよ。」

 上手い約束だと思った。それはこの女を殺しスタンド能力を取り戻そうとすればパッショーネの全員を敵に回すことになる事を意味している。

 何が約束だ。

 心の中で名前に毒づくも、選択肢が無いことは分かっていた。

 名前の手にまた二つの鍵が加わった。それがチョコラータとセッコのボスに対する忠誠の証であり、名前との奇妙な二年間の幕開けの鍵だった。



「名前」
パッショーネ所属
スタンド名、スリー・デイズ・グレイス。
約束をする事により鍵が与えられ、鍵を掛ける事によって有機・無機・概念問わず規制・禁止をする事が出来る。トリガーとなるのはその約束を破られる事。どの鍵がどこのかはスタンドと名前のみが感覚的に把握している。

以上


to be continued....


20180613


愛してなじって罵って