チン、と軽快な音を鳴らすエレベーターから気だるそうにビニール袋をぶら下げた青峰と苗字が出て来る。二人はそのまま”青峰”と記されたマンションの一室に、履き慣らしたサンダルをペタペタ鳴らしながら入った。閉め切ったカーテンの隙間から漏れる光に苗字は忽ち不機嫌になる。青峰がキッチンに放置されたまな板の上に乱雑にビニール袋を置いて、苗字がその袋の中を漁り始めた。
「なぁ、どっちから見る」
「アイズワイドシャット」
青峰はTVの前のソファに座ったまま、二つのDVDをひらひらと苗字に見せた。苗字が指差して即答すれば、青峰はもう片方のB級ホラー映画を哀れみの目で見つめた。
「まあ、まだ明るいしな」
苗字はDVDをセットし始める青峰を無視しながら、ネギを切り刻んでいく。包丁の扱いに慣れていない不器用な音だけが部屋に響いていたが、やがて映画は上映される。苗字が時々過激な映画を見たがることに、流石の青峰も初めは面食らっていたが、今となっては日常茶飯事になり、動揺の一欠片も見せなくなった。変な女。苗字に対する印象はそれだけである。キッチンで蕎麦を茹で始めた苗字は、特にすることもなくそのままその場所でぼうっと流れる映像を見つめていた。
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茹で上がった蕎麦にネギを散らして青峰に手渡す。苗字は無言で受け取る青峰の隣に座り、肩を並べながら裸体が映し出される画面を何とも言えない眼差しで見つめた。
「仮面つけるなんて、変態だよな」
「そう?私は浪漫を感じる」
ズズズと蕎麦を啜る苗字を青峰はやれやれとでも言いたげな目でちらりと見た。苗字は高校の時から妙に色気のある女だった。否、色気というよりは纏うオーラのような物である。とにかく、他の女とは一味も二味も違っていたのである。そんな苗字と初めて話したのは高3の夏だった。苗字から一緒に居てみようと突然、言われたのである。確かにそれが二人が初めて交わした言葉だったのだが、不思議とこうなることを青峰自身もわかっていた様な気がして奇妙だった。そして始まったこれまた奇妙な苗字と青峰の”共存”生活。腹が減ればどちらかが二人分作るし、したくなったらどちらから誘うでも無くセックスをする。朝から晩まで二人で語ることもあれば、一日中口をきかないことだってある。そしてお互いがお互いを大切だと思ったことは一度たりとも無いのであった。
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きっかりエンドロールまで映し切り、役目を終えたDVDが半分顔を覗かせる。感想を語り合うでもなく、青峰はB級ホラー映画のDVDをそれと入れ替えに差し込んだ。テーブルには食べ終えた蕎麦の器と、ビールと予め買っておいた申し訳程度のつまみが広がっていた。
「すげーつまんなそうだね」
「ああ、そうだな」
苗字はしょぼしょぼし始めた目を数回瞬きさせて完全に目を瞑った。映画が始まって数分でうとうとし始めた苗字を横目に、青峰はそれでもつまらなそうに只管映像を眺めていた。30分もすればストーリーは動き始め、見ている人を恐怖に引き込ませようと必死なBGMが大袈裟にクレシェンドを効かせる。盛り上がりが最高潮に達して、その叫び声やら断末魔が煩いだろうに、苗字はそれでもまだうとうとしている。青峰は苗字のキャミソールの紐がするりと肩から抜けるのを見て、苗字に深く口付けた。
「ん、…ふ」
漸く目を開けた苗字は気だるそうに青峰を視界に入れた。やがて唇を離された苗字は横目で騒がしいホラー映画を一瞥した。
「盛り上がってるみたいだけど?」
「もう、どうでもいいだろ」
なんでホラー映画で発情するかな、と苗字は面白そうにキャミソールを脱いだ。青峰も着ていたシャツを放り投げると、ソファに苗字を押し倒した。ふるりと横に落ちる柔らかな膨らみを揉みしだく。苗字の首筋にキスをすれば、部屋に響くBGMに不釣合いな可愛らしい音を立てた。
「今はエッチなんて気分じゃないのに」
「付き合ってくれるんだろ?」
「勿論」
苗字は嬉しそうに青峰の下半身のソレに触れた。変な女。青峰はそう思いながら、目の前で魅力的に自分を誘う苗字の手の上に期待に満ちた自分の手を重ねた。
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