お気に入りの缶チューハイを飲む時、いつも名前は飲み口に耳を近づけ、音を聞いていた。
「ぱちぱち弾けてるの」
その姿勢のまま嬉しそうに笑う姿はまだ幼い子どものような面影をちらつかせていた。音が静かになればまた缶を揺らして同じことを繰り返していた。
「炭酸が飛んでしまうよ」
「炭酸はね、飛んで行きたいって言ってるのよ」
そういう意味じゃない。じとっと名前を見つめていれば、俺の言いたいことに気付いたのか、大丈夫よ炭酸が抜けた位が丁度良いの、と笑った。
そんな名前が一口、酒を口に含む。そして飲み込まずに口を開けて天を仰いだ。だらしのない行為だとは思う。しかしそうする彼女自身の姿はキレイだと錯覚する程に雰囲気漂う様だった。ぱちぱち、と名前の口から微かに炭酸の音が聞こえる。覗き込むように名前の顔を見れば、先日前髪を切った時に一緒に切ってしまったと嘆いていたその不自然に短い睫毛を揺らしながら俺を見つめてきた。飲み込まれそうだと思った。目力があるとか、整った目元だとか、決してそういう意味ではなく、単に其れ程印象的な目元なのだと思う。やがて炭酸の音も消えかけた頃、名前は漸くごくりと喉を潤した。そしてもう一度名前が酒を口に含み、同じ行為をした時、俺は何を考えた訳でも無く、彼女の口腔に舌を差し込んでいた。ひんやりとしたアルコールの弾ける刺激と、名前の体温が喧嘩しているような、ちょっぴり不思議な世界に迷い込んだ俺の舌は戸惑っていた。目と目が数センチのこの距離。名前は先程と何ら変わらぬ表情で、ただ口の中の一瞬の命の音に、耳を澄ましていた。
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