「あれ?圭介?」
目の前に見慣れた後ろ姿を見つけ声を掛ければ、その背中がわざとかって程大きく震えた。
恐る恐るこちらを振り返るその様子が悪戯が見つかった猫のようで思わず笑ってしまう。
「そんなびっくりしないでよ、こっちもびっくりするじゃん」
久しぶりに見る圭介はいつもの黒の特攻服でも制服でもなく見慣れない白のMA-1を羽織っていた。
「お前、最近マイキーと会ってないわけ?」
「そうだねぇ、今高校の文化祭の準備にバイトにめちゃめちゃ忙しくてあんま会ってないよ」
私のその返事にそっかとどこか安心した顔をした圭介に何とも言えない感情になり、そばに寄り彼の肩にぐいっと腕をまわす。
「よしっ圭介くんや、ちょっとお姉さんに付き合いなさいな」
「はぁ?!」
文句を言う圭介を引きずってきたのは渋谷でも大きめのゲームセンターで、嫌々ながらも素直に引っ張られてくれる圭介を連れ、次々と並んだUFOキャッチャーのなかを覗いていく。
そのなかの一つ、目つきの悪い黒猫のぬいぐるみが目にとまる。
「ね、ちょ、この黒猫圭介に似てない?笑えるんだけど」
ぬいぐるみを指差せば、似てねぇよ、と一蹴された。
「じゃあお前はこっちだな」
まわりを見渡した圭介はにやりと笑い少し離れた場所を指差す。
指差した先にあったのは桃を被った小太りのおっさん。...おっさん??
思わずきょとんとしてしまった私はすぐに我にかえり頬を膨らませ拗ねてますアピールをしながら圭介を殴ってやれば、その顔を見て圭介はゲラゲラと笑う。
「けぇーすけー!」
「ほら、そっくりじゃねーか、捕ってやるよ」
「いらんわ!!」
なんて小競り合いをしながら店内を周っていればプリクラ機を見つけて圭介の腕を引っ張る。
「圭介っ、プリクラ撮ろプリクラ」
「撮んねぇーよ、ってやめろ、このっ」
問答無用にプリクラ機のなかに連れ込めば観念したのか大人しく撮られてくれた。
落書きも済ませ取り出し口に出てきたそれを見て私は笑う。
「笑える、全部不機嫌顔じゃん」
「お前はアホ面だな」
隣から私の手元を覗き込んで来る。
「よし、圭介携帯貸しな」
「ちょ、おまっ」
ズボンの後ろポケットに入っていた携帯を勝手に抜き取るとおもむろにバッテリーカバーを外しカバーの裏側、普段は見えないところに今撮ったプリクラを貼り付けてやった。
「これでよしっと、お守りね」
カバーを戻し圭介に携帯を返してあげる。
「お前勝手に貼んなよ...」
戻ってきた携帯の、バッテリーカバーの上を指で撫でながら圭介が言う。
「今度は万次郎と3人で撮ろうね」
万次郎の名前に反応し動きをとめた圭介が、言いづらそうに口を開いた。
「なぁ、その、マイキーと、ケンカしたっつったらどうする」
その問いかけに何気なくを装って普段通りの返答をする。
「え、なに?あんたら気がつけばいつもケンカしてんじゃん」
「あー...そういうんじゃなくてもっとこう取り返しがつかない感じのやつだったとしたらさ」
なるほど。
圭介の顔から見覚えのないMA-1に視線を落とす。
「んー、取り敢えず両方殴るかな」
「...は?」
「喧嘩両成敗、どっちが悪いか知らないけどケンカなんてどっちも譲れなくて、お互い悪いところあるから起きるんでしょ?」
何よりも東卍を、仲間を大事にしている圭介がその心である特攻服を脱いだのだ。
そこにはきっと圭介なりの譲れない思いがあって、それはきっと万次郎も一緒のはず。
「万次郎も圭介も、どっちも大事な幼馴染みだからね、私が一発ずつ殴ってあげよう」
そう胸をはって言えば圭介は肩の力を抜いて笑う。
「なんだよそれ...ただ殴りたいだけじゃねーの?」
「あはは、バレた?いつも迷惑かけられてんだからお返しする機会は逃さないよ」
だけど、だけどね、覚えておいて?
「でもさ、ほんとのほんとにこじれてどうしようもなくなったらさ」
「そんときは私が圭介のこと守ってあげるよ」
「...サンキュ」
私のその言葉に少し言葉を詰まらせた圭介は俯いてお礼を言った。
「圭介は人徳なさそうだからね、私くらいは味方でいてあげるよ」
「ほんと一言多いなお前は」
そう睨んでくる圭介に言葉を続ける。
「何思いつめてるかしらないけどさぁ、そのために私は東卍から一歩離れた場所にいるんだよ」
「頼んなさいな」
なんてカッコよく年上ぶって頭を撫でてあげたところで丁度母親から連絡が入って、圭介に晩ごはんまで付き合ってもらうことになる。
頼み込んでファミレスに付き合ってもらう図は年上の威厳もくそもなかった。タイミングを考えて欲しかったよママン。
注文した料理も全部届き、もぐもぐと咀嚼しているところに食べ終えていた圭介の携帯が鳴る。
相手を確認した圭介は私に断りをいれると通話をするために店の外に出て行った。
どれくらい経っただろう、ご飯を食べ終えても帰ってこない圭介に、長電話だな女子かよ、なんて悪態を吐きながら疲れと満腹感からか一気に眠気が襲ってくる。
うとうとと抵抗していたのは最初だけでそのままスコンと眠りに落ちた。
揺蕩う眠りのなか、何かが頬に触れ、唇に温かさが灯る。
何だろう、と思った瞬間突然おでこに走った衝撃に目を白黒させた。
一気に眠りの世界から現実に引き戻された私の目の前、デコピンの指の形をして眉間に皺を寄せる圭介と目が合う。
「はっ寝ちゃってた?!」
「こんなとこで寝こけんじゃねーよ、マイキーに言いつけんぞ」
「やめてやめて、万次郎この間からなんでか私への執着ヤバいんだから」
自業自得じゃねーの、なんて意地悪を言う圭介に長電話だったけど大丈夫だったか聞けば気にすんなとぽんと頭を軽く叩かれた。
「食い終わっただろ、送ってってやるよ」
「え、なに、優しくて怖い、私死ぬ?明日死ぬ??」
「ばーかお前は俺たちが死なせねぇよ」
私が会計をしている後ろで圭介が自分の唇を押さえ、ごめんマイキー、なんて呟いていたことを私は知ることはなかった。