「あ」
「げ」
正面からバイクに跨ってこちらに走ってくる見知った顔を見つけ、圭介じゃんと声を掛ければ、そいつは私と目線を合わせず、人違いじゃねぇ?と返された。
「いやいやいやいや、言い訳下手かよ」
「チッめんどくせぇ」
人の顔を見て舌打ちした上に悪態を吐いた大変失礼な男、場地圭介は私の顔を見ると一瞬目を見開き、眉間に皺を寄せた。
「てか、お前、なにその顔」
圭介の言葉に先程の出来事を思い出す。
頬を赤く腫らすことになった原因、その一連の流れに正直に話せば面倒になる未来しか見えなかった私は藁をも掴む勢いで咄嗟に思いついた言い訳を口にする。
「あー、んー、転んだ?」
「いや、言い訳下手かよ」
あまりに苦しい言い訳にさっきのお返しとばかりにツッコみ返され、さらにはデコピンまでお見舞いされた。
それに痛いと抗議しながら、そんなに目立つ?と聞けば、
「逆に聞くけどなんで目立たねぇと思う」
とぶっきらぼうに返された。
「圭介ならいけるかなって、ちょろいから」
「泣かすぞおら、ってかそれ、あいつ知ってんの?」
圭介の口から出た、今この場にいないもうひとりの幼馴染みの存在に苦笑いしか浮かばない。
「知ってたとしたら私が今ひとりでここにいるわけなくない?」
私の返事に、まぁそうだろうな、と納得した様子の圭介。
「万次郎には黙ってて」
「いや、普通に気付かれないとか無理だろ」
私の頼みは目の前の男に一蹴された。
「で、ほんとのとこまじで何があったわけ」
突如圧がかかりピリついた空気に、普段は万次郎の過保護さがアレなのでなりをひそめているがそういえば圭介も大概過保護なところがあるんだったと思い出した。
「ただイキってるだけの不良にいたいけなJKが絡まれてたから助けただけ」
「いやなまえもJKだからな、いたいけかは置いといて」
「圭介ってほんと私に失礼だよね」
「それで?いつもみたいに殴らせたのかよ」
「いや、いつもって、あんたたちみたいに頻繁に喧嘩してないっつーの」
最後の悪あがきで誤魔化すように話を逸らせば、もう一度、殴らせたのか?とさっきより圧を込めて聞かれた。
「まぁ、どんなに相手が弱そうでも正当防衛狙うなら最初の一発目は向こうじゃないとダメだからね」
観念した私が正直に話せば圭介は深くため息を吐く。だから言いたくなかったんじゃん。
「てか、まじで無茶すんなよ、お前ひとりの身体じゃねぇんだから」
「いや待って、それなんか違う意味になるやつ」
「うっせ、似たようなもんだろ、お前になにかあったらマイキーが黙ってねぇんだから」
恐ろしい事実に乾いた笑いで、あはは、私愛されてるぅと冗談混じりで言えば、
「笑い事じゃねぇよ、人の生死かかってんぞ」
とさらに追い討ちをかけてきた。
「え、どうしよう圭介、万次郎の愛が重い」
「どうにもなんねぇーよ、相手が悪かったな、来世に期待しとけ」
「万次郎なら来世にすら着いてくる気しかしないんだけど」
私の答えがお気に召したのか、あながち間違いじゃねぇかもなと八重歯を見せ笑う圭介からはさっきまでの圧はもう感じない。
「なにそれ怖い、ってことだからバイクの後ろ乗っけてよ」
「なにが、ってことだからだよ、乗せねぇよ、歩くぞ、おら」
「酷い、圭介はなんのためにバイク乗ってんの」
「少なくともお前を乗せるためじゃねぇな」
家までの帰り道を二人で並んで歩く。
憎まれ口しか叩かない、素直じゃない幼馴染みと過ごすこんな何気ない日常が私は好きだった。