「だからね、これだとお金足りなくなっちゃうからマナもルナと同じこっちにしよ?ね?」
「やだ!マナ、キラキラのやつがいい!」
時刻は夕方。
母親に頼まれた買い物を済ませるためバイト先のスーパーに寄った帰り道。
お菓子売り場で小学校低学年らしき女の子とそれよりも幼い女の子、雰囲気から姉妹だろう2人がお互いに欲しいお菓子を手に何やら口論をしている。
私はというと少し離れたところその可愛らしい姉妹の行く末を他人事ながらハラハラと見守っている最中だ。
自分のことをルナと呼ぶお姉ちゃんらしきツインテールの女の子は買い物カゴと可愛らしい女の子がパッケージに描かれたウエハースを手に持っており、マナと呼ばれた妹ちゃんらしきお団子の女の子はキラキラのアクセサリーが入っているだろう六角形の細長い箱を両手で握りしめていた。
妹ちゃんの持っているそのお菓子は幼い女の子の乙女心をくすぐるもので、それ故にか他のお菓子より少しお高い。
お姉ちゃんであるルナちゃんが何を言ってもそのお菓子を諦めそうにない聞かん坊の妹マナちゃんの様子にルナちゃんは一瞬目を閉じぐっと唇を噛み締めるとマナちゃんに向かって優しく笑いかけた。
「ッ、わかったよ、ルナのお菓子返すからマナはこれ買いな」
ルナちゃんは自分が欲しかったお菓子を棚に戻すとマナちゃんと手を繋ぎレジへと向かっていった。
その様子を最後まで見届けた私は女の子が棚に戻したお菓子をそっと持っていたカゴに入れレジに向かう。
バイト仲間の女性店員が私のカゴの中身を通していきながら、可愛らしい女の子のイラストが描かれたそれを見て「あれ、みょうじさん妹さんとかいましたっけ?」と尋ねてきたが「ううん一人っ子だよ、これはちょっと、ね」と言葉を濁し会計を済ませた。
精算済みのカゴを手に、サッカー台で買った物を袋に詰めている女の子たちの隣に何気なく並んだ私は意を決して、他のお客さんに迷惑がかからずそれでも隣の女の子たちには充分に聞こえるくらいの、それなりのボリュームで用意していた独り言のような言葉を発した。
「あっ!どうしよう、間違えて買っちゃった!」
若干のワザとらしさが言葉の端に表れてしまったが計画通り突然のその声に女の子たちが私の方を向いた。
二対の可愛らしい視線が私の手に注目している。
そこにあるお菓子を見たマナちゃんが思わず声をあげた。
「あ!それ、お姉ちゃんが欲しかったお菓子」
「マナ!」
マナちゃんの口をルナちゃんが慌てて塞ぐ、が、残念ながらもう言葉はマナちゃんの口から飛び出た後。
私は彼女たちに気付かれないように口端を上げると、すぐに少し困った表情を作り姉妹たちと目線を合わせるためにその場にしゃがんだ。
「そうなの?お姉さん、間違えてこれ買っちゃったみたいなの、もしよかったら貰ってくれないかな?」
なおもマナちゃんの口を塞いでいるルナちゃんにお菓子を差し出すも、ルナちゃんはふるふると首を横に振った。
「知らない人から、もの貰っちゃダメって、言われてるから」
先程の口論の様子からもしっかりした子だと思っていたが、どうやら本当に年齢の割にしっかりした子らしい。
こちらを警戒して見てくるルナちゃんにお菓子を差し出したままにこりと笑いかけると「私はみょうじなまえっていいます。普段夕方にこのスーパーで働いてる高校生です」と軽く自己紹介をした。
きょとんとしている姉妹たちを見ながら私は言葉を続ける。
「さすがにバイト先で怪しいことなんてしないし、もうお名前も働いてるところも知ってるからまったく知らない人じゃないでしょ?だからこれ受け取ってくれるとお姉さん嬉しいな」
ルナちゃんは数拍おいてマナちゃんの肩に置いていた手をおずおずとこちらに差し出しながら「ほんとに、いいの?」と上目遣いでお菓子を受けってくれた。
両手でお菓子を大事そうに持つとそのパッケージをじっと見つめ、ずっとぎゅっと固く結ばれていた彼女の口元が次第にもにょもにょと動き出す。
「お姉さん、ありがとう」
そう私に向かってお礼を言い、やっと年相応の笑みを顔いっぱいに浮かべた。
「お姉ちゃん!よかったね!」
そんな私と姉の様子をみていたマナちゃんもにこにこと笑う。
無事貰ってもらえて良かったと胸を撫で下ろしていれば、でも、とルナちゃんが言葉を続けた。
「貰うの、悪いからちゃんとお兄ちゃんにお金貰う」
幼い少女の口から出た言葉にまたもや驚いてルナちゃんを見る。
自分が彼女ぐらいの歳の頃、こんなにも大人に気を遣えていただろうかと記憶を辿るも悪友とも言える幼馴染み2人と一緒に大人を困らせていた記憶しか出てこなかった。
そんな黒歴史に意識を向けていればルナちゃんにそっと手を握られる。
「ルナたちのお家、近くだからついてきてもらっていい?」
そうお伺いをたててきたルナちゃんのことを断れる訳がなく、姉妹と手を繋ぎながら2人の家まで歩く。
ちなみに買い物した荷物は2人の分も一緒に私の通学用リュックのなかにしまった。
道すがらお姉ちゃんがルナちゃんで妹ちゃんがマナちゃんだと教えてくれた。
お互いに自分のことを名前で呼んじゃってたので知ってはいたけど、ちゃんと自己紹介しておかげで堂々と名前を呼べるようになった。
「ルナちゃんとマナちゃんにはお兄ちゃんがいるんだね」
ルナちゃんは6歳でマナちゃんは4歳、先程話に出たお兄ちゃんは14歳なんだそうだ。
お兄ちゃんだけだいぶ歳が離れてる兄妹らしい。
「うん、お兄ちゃんに頼まれてマナと2人でお買い物に来たの」
「そうなんだ、2人だけでお買い物出来るなんて偉いね」
ルナちゃんとマナちゃんを交互に見ながらそう褒めてあげれば2人顔を見合わせて何やら頷き合っている。
「あのね、ルナたちのお兄ちゃん、ちょっとヘタレだけど強いしいけめんだしお買い得だよ」
「お料理も裁縫も出来る今流行りのすぱだりだよ」
何故かいきなりお兄ちゃんはいい男アピールタイムがはじまった。
というかマナちゃん、何故若干4歳にしてスパダリなんていう言葉を知っているんだ。
何やら保育園でしているがーるずとーく(マナちゃん談)でそんな話が出るらしく「やっぱりおとこは優しくて強くて何でも出来なきゃねってあーちゃんが言ってた」と教えてくれた。
今の4歳児恐ろしい。
「お姉さん、美人だし優しいし、ルナもマナもお姉さんのこと大好きになっちゃったからお兄ちゃんの彼女になって?」
私の足にぎゅうっと抱きついたルナちゃんが小首を傾げながら可愛くお願いしてくる。
「それとももしかして、お姉さんもう彼氏いる?」
ルナちゃんと同じくマナちゃんも反対側の足に抱きつきながら上目遣いで見てくる。
「い、いませんぅ」
「じゃあお兄ちゃんに会ったら考えてね?」
下から見上げてくるきらきらした二対の瞳の可愛さにきゅんきゅんしながら6歳と4歳におもわず敬語を使ってしまう16歳。
今周りに人が居なくて良かった、明らかに変質者のそれだ。
「あっ、マナたちのお家あそこだよ」
マナちゃんが指差したのは想像よりも年季の入った二階建てのアパートだった。
その内の一つの扉を開けた2人は、ただいま、とそのままなかに入っていくので私もその後に続く。
「ルナマナお帰り、遅かったな、なんかあったのか」
そんな2人を出迎えに玄関に姿を現した少年と顔を見合わせてお互いに目を丸くさせた。
「って、なまえさん?」
「あれ、三ツ谷くん?」
そこには私服にエプロン姿の三ツ谷くんが菜箸を片手に立っていた。
ルナちゃんとマナちゃん曰くヘタレだけど強くてイケメン、スパダリ予備軍の歳の離れたお兄さんとは三ツ谷くんのことだったらしい。
「なんでルナマナと一緒になまえさんがいるんだ?」
状況が分からず混乱している三ツ谷くんにルナちゃんとマナちゃんが説明し始める。
「あのね、お姉さんがルナにお菓子くれたの」
「間違えちゃったんだって」
「ん?お菓子?間違えた?」
幼い姉妹の断片的な説明は三ツ谷くんを余計に混乱させることとなり、私は苦笑いしながらことの経緯を彼に伝えた。
伝え終わると三ツ谷くんは、
「うわ、すみません、恥ずかしいとこ見られちゃったみたいで、あっ、お金今持ってきますから」
そう言い財布をとりに行こうとしたので慌てて引き止める。
「いやいや、私が勝手にしたことだからお金はいいよ、ここにもルナちゃんとマナちゃん送ってきただけだから」
「でも」
「いつも三ツ谷くんにはバカ2人が迷惑かけてるでしょ?そのお礼ってことで」
だめかな?と三ツ谷くんに頼み込めば、三ツ谷くんは「ッわかりました」と顔を背けた。
顔を背けた先にいたルナちゃんとマナちゃんが三ツ谷くんの顔を見て悪戯っ子の顔を浮かべる。
「あっ、お兄ちゃん顔赤ーい」
「お姉さん美人だもんね」
ルナちゃんは私と三ツ谷くんを交互に見、私に近寄ってこっそりと話しかけてくる。
「お兄ちゃんとお姉さん、おともだちだったんだね、お姉さん、お兄ちゃんどう?」
「え、」
「どうってなんだよ」
こっそりと話しかけてきたルナちゃんの質問は、三ツ谷くんの耳にも届いたらしく彼も反応する。
すると今度はマナちゃんが続けた。
「お姉さんにお兄ちゃんの彼女になってってマナたち頼んだんだよ」
三ツ谷くんは「そういうことか」と言うとその場にしゃがんで2人と視線の高さを合わせると彼女たちの頭を順番にぽんぽんと撫でた。
「なまえさんにはマイキーがいるからなぁ」
姉妹たちは撫でられた頭を押さえそれぞれ小首を傾げる。
「お兄ちゃんがよく話してるあのマイキー?」
「無敵のマイキー?」
2人の問いに三ツ谷くんは「そう」と答えると、彼女たちは顔を見合わせ
「じゃあお兄ちゃん敵わないね」
「なーんだ、残念」
「あれ、オレ告白した訳じゃないのに失恋した気持ちになってんのなんでだろう」
目の前で繰り広げられる仲の良い兄妹の会話に私は思わず笑ってしまった。
「妹たちが迷惑かけてすんません、もうこんな時間だし送ってきますよ、なまえさんちってどこっすか?」
大体の家の場所を伝えれば三ツ谷くんはうーんと顎に手をそえて唸った。
「結構距離あんな、インパルス出す?」
私に問いかけるというより独り言のようなそれに私は「やめとくよー、まだ命は惜しい」と返した。
「命?オレ安全運転だと思いますけど」
「違う違う、私のじゃなくて三ツ谷くんの」
「オレの...あっ、なんか言われてんすね、マイキーっすか?」
「そう、命だいじにだよ少年」
「いや、オレらたかだか2歳差っす」
「元々歩いて帰るつもりだったから大丈夫だよ、それにルナちゃんとマナちゃん、置いてけないでしょ?」
「そうっすけど、ちょっと待っててください、一応マイキーに連絡してみるんで」
リビングに携帯を持ちにいった三ツ谷くんの背中を見送り、玄関先に残された私は可愛らしい姉妹とお話をして待つ。
数分後、なまえさん、と名前を呼ばれ三ツ谷くんが戻ってきた。
「マイキー、家まで迎えに来るらしいっすからここで待っててもらってもいいっすか」
何もないですけど、という三ツ谷くんに「え、いいの?」と伺えば
「全然大丈夫です、というかひとりで帰すなって言われてんでむしろ家にいてください、あのマイキーを秒で動かすなんてさすがなまえさんですね、噂通り愛されてますね」
噂って何?!
東卍のなかでの私と万次郎の関係ってどう思われてるの??
「ああああいされっ、もうっ、別に万次郎がすぐ迎えに来るとは限らないじゃない」
動揺を隠したくて、どこかに寄ってから来るかも知れないしっ、と思ってもいないことが口からすらすら飛び出してくる。
「ふーん、だったらマイキーがどのくらいで着くかさっきのルナのお菓子代でも賭けます?ちなみにオレは最短の時間に賭けますけど」
なまえさんはどうします?と言った三ツ谷くんの挑発に乗せられて尚も口が滑っていく。
「なっ、あれはお礼って言ったでしょ、それに2人が同じ方賭けたら意味な、い、じゃな、い」
止まらなかった私のその言葉に三ツ谷くんはにやりと笑う気配がした。
「愛されてる自覚あるじゃないですか、なんだかんだ言いながらなまえさんもマイキーのこと好きですよね」
ハメられた!
「ッうるさいっ、ルナちゃんマナちゃん、お兄ちゃんなんてほっといて中で一緒に遊ぼう」
「やったぁ!お姉さん、来て来て!」
「何して遊ぶ?」
赤くなった顔を誤魔化したくてルナちゃんとマナちゃんに呼び掛ければ、2人は嬉しそうに私の手を引きリビングのある方へと案内してくれた。