私が身近な人の死に触れるのは2回目だ。

祖父母は父方母方両方ともに健在で、お葬式というものに参列したのは真一郎くんの時が初めてだった。


ケンくんにとっては父親代わりの店のオーナーを喪主とした身内のみの葬儀はしめやかに取り仕切られ学生服に身を包んだ私は今、同じく学生服を着たエマちゃんの体を支えてながら火葬場から佐野家に帰宅したところだ。



「エマちゃん、ほんとに大丈夫?今日も泊まっていこうか?」



ここ数日でやつれてしまった彼女を放ってはおけずそう言うものの「おじいちゃんもマイキーもいるから平気だよ」と下手くそな笑顔でやんわりと拒否されてしまう。
万次郎も万次郎でケンくんを亡くした事実をまだ受け止められないのか、自分の感情のコントロールを失い荒れに荒れていた。

そんな二人をただ見ているだけしか出来ないことが本当につらい。




そんななかケンくんが亡くなったとしても私の生活は変わらず、学校もあればバイトもある。

そんなバイトの帰り道、店を出た時から誰かにつけられてる気配がする。
出来るだけ人通りの多い明るい道を選び歩いてきたが、そういえばと帰路にある公園を思い出す。その公園はこの時間になると人気は少なく人目に入りにくい作りではあるがそこを通り過ぎればすぐ交番があったはずだ。
交番にさえかけ込めばなんとかなるはずだと、早足で通り過ぎてしまえばきっと大丈夫だと、私はその公園に入った。

その途端後ろからもの凄い力で腕を引かれ、振り向いた瞬間ドンっという衝撃と硬い何かが胸元に当たった感覚が襲った。同時に視界が捉えていたのは帽子を目深く被り、黒のジャンバー、黒のチノパンと全身黒尽くめの見知らぬ男性で、事態についていけずに2度ほど瞬きをする。

驚きと緊張からかドクドクといつもより存在を感じる脈動に、まるで焼け付くような熱さが胸元を襲い、目の前の男の顔から自分の胸元に視線を落とした。




「な、なんで」



私の胸元には、ここにあるべきはずではない包丁が横向きに突き刺さっていた。
じわじわと赤に染まる制服の胸元に、まるで熱した棒を突っ込まれたかのような熱さ。

反射的にまだ私の胸元に包丁を突き立てたままの男の腕を掴むと私の手が触れたと同時、動揺からか男は包丁を掴んだまま腕を自分の方にひいたため、私の体から包丁が抜ける。体から異物が出て行く感覚がリアルに伝わった後、刃でとめられていた血液が勢いよく流れ出した。

縋るように包丁を地面に落とした男の腕を取ろうと手を伸ばせば、小刻みに体を震わせる男は私の体を後ろに突き飛ばし後ずさる。


「おッおれは、何も知らないッ」


勢いよく突き飛ばされた私は衝撃で尻もちをついたあと、そのまま地面に倒れ込んだ。痛みにくぐもった声が漏れる。
それを確認した男は意味不明なことを言いながら公園の出口の方へと走り去っていった。


残された私はどうにか起きあがろうと力を入れようとするも全身が痛くて転がるだけで精一杯で、それでもどうにかしなくてはと公園の出口を目指そうと這いずろうとする。

そんな私の目の前に見慣れた白い安全靴が飛び込んできた。

誰?そう思い視線をあげようとした瞬間、前髪を引っ張られ無理やり顔を上げさせられた。




「いい光景だな」

「あんた...!」


現れたのは東卍の黒い特攻服に白の安全靴を履いた、ケンくんが亡くなった後万次郎のまわりをうろちょろしてる金縁メガネの男だった。

私の目の前にしゃがみ込んだメガネのいけすかない男は私の髪を掴んだまま話続ける。



「東卍の要、龍宮寺堅はもういない」


「思い人の死に佐野エマも壊れ、場地圭介を壊すのも時間の問題」


「だからあと邪魔なのは貴方だけなんです」


「佐野万次郎に"救い"は必要ない」



私の髪を離した男はそのまま立ち上がると刺された胸元らへん、肩甲骨辺りを遠慮なしに踏みつけてきた。痛みとともにゼェゼェと気管に溜まっていたらしい血液が押され咳と共に血が出させる。


「さようなら、良い旅路を」


私の背中をぐりぐりとまるでタバコの火を消すように踏みつけた後、金縁メガネの男はそのままこの場を立ち去っていった。




全身の痛さに、まだ夏日のはずなのに感じる寒さ、一向にとまらない血。


もうダメかもしれない。




霞んでいく意識の中、力を振り絞って上着のポケットのなかの携帯を取り出そうとするも力が入らない上に自分の血液で濡れた手では上手く掴めず無情にもその小さな機体は地面に転がった。

もう手を伸ばす力すら残っていない私は転がった拍子に偶然開いた画面をただただ見つめる。

携帯の待ち受け画面のなかには、嫌そうな顔をしている万次郎と圭介、その間に笑顔の私が写っていた。



誰か、誰か、万次郎と圭介を守って、

誰よりも強いくせに本当は寂しがりやで甘えたな万次郎を、驚くくらいバカなくせに誰よりも優しくて心配になるほど仲間思いの圭介を。

私の体を中心に地面が赤黒い液体で染まるなか、頬に涙が滑り落ちていく。



「死に、たくな、い、死、にたく、ないよぉ、まんじ、ろぉ、けぇ、すけぇ」




実際には音にもなっていなかったその声は、誰にも届くことなく暗闇の静寂の中に消えた。




-- 昨夜未明、渋谷区公園内にて10代後半とみられる女性の遺体が発見されました。警察は身元の確認を急ぐとともに詳しい死因を調べています。続きまして----

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