兄ちゃんが夜遅くに携帯を壊して帰ってきた日。
連絡が取れなくて心配してたと伝えれば、知らないヤツらに絡まれてケンカをし、そこで落として壊したらしい。
それにしては兄ちゃんの機嫌が良くて不思議に思う。

その後週に1、2回の頻度で帰りが遅くなる日が続いた。
遅くに帰ってくる日の兄ちゃんはやっぱり機嫌が良くて、ふわりと兄ちゃんから香る匂いは兄ちゃんのいつもの香水じゃなくてもっと優しくてあったかい。それがなんの香りかなんて俺にはわからなかった。

そんな現象が1ヶ月くらい経ったある日、兄ちゃんは俺に今日は家に居ろなんて珍しく言いつけて出掛けていった。
なんか怒られるのかと思って、ご機嫌取りのために兄ちゃんが好きな店のモンブランを賄賂にしようと買いに行けば、丁度ラスト一個。
ギリギリ間に合ったと思ったら後ろに並んでいた特に印象も残らないような地味な女もモンブランが欲しかったらしく、しょうがなく譲り俺は違うケーキを買った。
箱に詰めてもらうのを待つ間何を思ったか女が話しかけてくる。
新手のナンパかと思えばそんな感じではなく、面倒臭いと思いながらも会話をする。
女の知り合いがここのモンブランが好物らしく気になっていたと言われたので、じゃあ俺が譲ってやったんだから味わって食えよ、と揶揄えば、このモンブランはその知り合いが食べるらしい。なんでだ?
他のケーキも買ってたんだから知り合いにはそれを食べさせてモンブランは自分が食えばいいだろ、と言えばその知り合いが食べてるところを見るのが好きだからとへにゃりと笑いながら言ったお人好しな女。
特に印象も残らない地味な女なんていう最初の印象は一瞬でふきとんだ。
何を言おうか自分でもわからなかったが自然に何かを言いかけたところで店員に呼ばれた。
箱に入ったケーキを受け取り、女の方を見れば女は俺に軽く礼をして、自分の箱を取りに行った。

家に帰れば兄ちゃんはまだ帰ってなかった。

玄関が開く音がして出迎えれば兄ちゃんの後ろに知らない女の後ろ姿。

振り返ればさっきケーキ屋で会ったあの女だった。

なんでこいつが兄ちゃんといるんだ?

女が言っていた知り合いは兄ちゃんのことで、食べてる顔が好きっていうのは、そこまで考え至って心臓が苦しくなった。

...兄ちゃんはやっぱりずりぃ。

なまえに兄ちゃんのこと好きか聞いたら曖昧な答えが返ってきた。

まだ俺が入る隙はある?
兄ちゃんに向けたあの笑顔を俺にも向けてくれる?

なぁ、なまえ、俺のことも飼ってよ。

なまえのこと独り占めしたいなんて我儘は言わないから、俺のことも見て、ちゃんと構って。

飢えた獣のようになまえの掌を甘噛みしながら横目で兄ちゃんの様子を窺えば、兄ちゃんは俺となまえを見つめ愛おしそうに目を細めていた。






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