嫌、嫌

ENMASAMASUMMER

彼女は不思議な匂いがする。
「あら、すずさま。ようこそおいでくださいましたわ」
 彼女はさいとうすず、と名乗った。年齢に反して小さな体躯は、服によってカサ増しすらされているようである。額に埋め込まれたプラスチックの宝石が彼女をどこか人外じみた雰囲気にする。
「やあ!」
 快活に笑う彼女の瞳は、この円玖によく映える赤だった。黒髪は乱雑に彼の顔の横で揺れている。彼女と知り合ってから、彼女は定期的にこの教会に訪れてくれるようになった。基本的にはどこでもフラフラしているようだが、どうやら会いにきてくれるらしい。
「本日はどのようなご用件でして?」
「ああ、今日は君をボクの宗教の信者にしてあげたくてね」
 ふと頭をよぎる、信者、という言葉の嫌な感じ。もやもやを押し殺して彼女の言葉を待ったが、どうやらそれが本来の用件のようだ。敬虔なカミサマの信徒である自分に彼女は何を言っているのだろう。苦笑いをたたえながら静かに断る。
「ふふ、とても嬉しい申し出でございますが、わたくしは既にカミサマへ仕える身。すずさまの信者にはなれませんわ」
「それは残念だ。だが安心してくれ、君もボクが救ってあげよう」
 何から?
「ええ、ええ、それはとても嬉しいですわ」
 ずきん、と頭が痛む。
「けれど、君。君のいう神様はどうやら今の君を救っていないようだけれど、君の神様はどこにいるんだい?」
 にわかに、信じがたいような感情が心に湧き上がった。醜い。くだらない。自分には到底、似合うものではない。嫌な感覚。考えたくないこと。思い出せないこと。思い出したくないこと。
「……ふふ、一般的にはお空のはるか上、と言われておりますわ」
「それは君の神様か?」
 違う。自分はずっとここにいて、ずっとここでここの住民たちと幸せに暮らしていて、そして、自分はずっと何不自由なく幸せなはずだった。今がその通りだ。間違っていない。幸せだ、幸せ、きっと。
「申し訳ありませんわ。妹の夜ご飯の支度をしなければならないので、ここらで失礼いたします。またどうぞ、教会にいらしてくださいませね、すずさま」
 本当にそう思っていたのかはわからない。彼女の答えを聞くことなく急いで教会を後にした。

さいとうすずさんとイヴ。なんだかとても、嫌な感じのする彼女。