ちりん、ちりん。
 風鈴の音が聞こえる。その音が安易に連想するのはかの人の姿。
「本日も風鈴の音は美しいでございますわね」
 そう話しかければ、かの人はこちらを振り向いてにこりと微笑んだ。
「やあ! 今日はボクの名前がわかるかい?」
 自身の顔と名前を一致できない、という悪癖を覚えていてくれたのだろう、かの人はいたずらっぽそうに笑うとこちらを正面から見据えて自分の返答を待った。さて、なんだったか。精一杯記憶をたどる。何か、音に関係する名前だったような気がするのだが。
「……うーん、そうですわね…………風音さま?」
 かの人の顔は特に微笑みから変わらず、ついでくすくすと笑い声が漏れる。
「ははは、じゃあ今日のボクはそれで行こう!」
「あら、正解は教えてくださないのですか?」
 かの人はひらりとその姿を舞わせて背を向けた。振り向きざまの顔がどうにも楽しそうに影を帯びていて。
「アンタが思い出したらね」
 随分と意地悪な人だ。

今日のあなた / 汐音



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