図書館

ENMASAMASUMMER

その図書館は厳かな雰囲気を携えながら、それでいて誰でも迎え入れるような姿をしていた。重々しい扉をくぐって中に入ると、そこには図書館独特の本の香りが蔓延していて、大きく息を吸う。カウンターにいた職員らしき少女がこちらをちらりと見て、にこりと微笑んだ。図書館の中は静寂だった。
 目的もなく書架の間を練り歩く。別に何か、本を探しに来たわけではない。本を読むのは好きだが、今読みたい本があるわけでもない。ただあてもなく、こうして本がぎっしり詰まった書架の迷路の中を進んでは、気が向いた背表紙を眺めるのがただただ楽しく感じていた。
 時折読んだことのある名作や、面白かった記憶のある本を見つけると嬉しくなる。誰も見ていないのをいいことに小さくふふ、と笑って見せた。
「おや」
 ちょうど本棚で死角になるところから、眼鏡をかけた男性が現れた。危うくぶつかりそうになってしまってあら、と声が漏れる。その人の赤縁の眼鏡が反射して光って、その奥の細い目が見えた。
「あら、申し訳ありませんわ」
「いいえ。こちらこそ」
 司祭服にも似たローブのような全身を包む暗い服と、大きな袖が微かに揺れた。少し伸びた黒い髪は、額を出しているせいなのか、なぜか清潔に見える。何冊か本を手にしていた彼は、自分の横を通り抜けて本棚に戻した。
「……こちらの司書さまでございますか?」
「ええ、一応」
「まぁ! どうりで本を読んでらっしゃいそうなお姿をしておりますわ! わたくし、イヴ・フィッツと申します。こちらの図書館はとても広くて蔵書もたくさんありますのね」
「そうですね、だいぶ広いですから。……僕は真門と申します、どうぞごゆっくりお過ごしください、イヴさん」
「ふふ、そうですわ! 真門さま! 真門さまのオススメの本はございますか? わたくし、今日は特に目的もなく訪れたので特に借りる本が思いつかないのですわ。こんなに広いんですもの、選びきれませんわ」
 手に持っていた本を全て書架へ戻すと、彼は眼鏡をあげて微笑んだ。
「ええ、僕でよければいくつかご紹介しますよ。イヴさんは普段どんな本を読まれるんですか?」
 彼に誘導されるがままにまた書架の迷路の奥深くへと潜っていく。この場所が静かだからか、普段より抑えめした声もよく通るようで、ほんの少し気恥ずかしい。どこか懐かしいような感覚に襲われながら、好きな本の話をしようと口を開いた。

真門さんとイヴ。素敵な図書館の司書さん。