Where is secret place?


 チャイムとともに少女はゆっくり立ち上がる。急にざわつきを取り戻した教室は、放課後という時間の訪れとともに解放される。はやる気持ちを落ち着かせながら、少女はしっかりと地面を踏みしめて帰る方向とは逆へと歩き始めた。人並みはやがて減り、少女だけが廊下に取り残される。自然と我慢していたはずの笑みが溢れ始めたことに少女は気づいているのかいないのか、足取りは徐々に早く。そして目的地の戸をそっと開けた。
 中は廊下よりも静かで、ほのかに書物の香りがした。自分の背丈よりもはるかに高い書架の間を縫いながら少女は、本で彩られた迷路をくぐり抜けていく。そのゴールまでの道はもう、体がとっくのとうに覚えてしまっている。待ち望んでいたゴールにはやはり、ご褒美のようにその少年がいた。少女は上ずる声を抑え、ゆっくりと本のページを捲る少年の横に座る。少年は少女の訪れにほんの少し*を動かしたが、視線は手元の本から動かさなかった。
 少女は少年の本のタイトルを覗き込む。目を丸くして、少年に小さな声で耳打ちをした。ようやく少年の視線が本から離れ、ゆっくりと少女を見る。少年はさらに小さな声で、何かを告げる。少女は鈴がなるような声で小さく笑った。その度に揺れる金髪が、少年の肩にかかった。少年は少し*を赤くして、少女に近くの書架を指差した。少女がもう一度にこやかに微笑んで、席を立った。
 少女は少年の存在を一瞬忘却する。並ぶ背表紙は、異世界への扉。真っ白で滑らかな指先を少しざらついた背表紙の上に這わせ、どの世界へ行こうかと逡巡した。少女の逃げ場所、少女が求めている世界が、その小さな背中の先にある。ピタ、とある小説の背表紙の前で指先を止めると、本棚の隙間に人差し指を差し込んで綺麗に整列された本棚から一冊抜き出した。手のひらの上で開いてパラパラとめくり、今日トリップするに値する世界かどうかを確認する。だいぶ開かれていない、少し埃っぽい本の香りがした。ぱたん、と小さな音を立ててその本を閉じて、胸の前で抱きしめるようにもつと少女は少年の隣へと戻った。
 ありとあらゆる本で埋まった書架に囲まれた、ささやかな二人だけの空間が、少女と少年の秘密の場所だった。

少年期:図書室で秘密を共有した記憶
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