Who is her?


 少女の知っている母の姿は、丸まった後ろ姿と手を挙げ怒った顔だけだった。後者は少女の前でのいつもの母の姿。前者は、ほんの少し記憶に残る珍しい母の姿である。
 母親はいつも決まって毎週日曜日の朝、神へ祈る。それを少女は知っていて、母親にバレないように教会の扉の隙間からその背中をずっと眺めていた。少女は母親を憎んではいない。ただ、その母親のことを知りたかったのだった。
 朝の日差しが差し込む教会の、ステンドグラスの下で壁に大きく飾られた十字架に向けて母親はひたすら祈りを捧げていた。その瞬間の母親の姿だけは、自分やそれ以外の全てのものを切り離して見ることができて、少女は好意さえも抱いた。少女は教会への出入りを許可されていなかった。少女は修道女の服を着ることを許されなかった。
 ただ眺めている。誰も少女がそこにいることを知らない。知っていたとしても、誰も興味がない。怒ることですら無駄であるからだ。けれど少女はそれが嬉しかった。誰も己を怒らない。誰も己のことを知らない。それでいい。そう、考えていた。
 少女は母親の真似をして手を組んでみた。ドアの隙間から眺める十字架と母親の後ろ姿はひどく小さく見えて、神様の大きさを知った気でいた。少女は何かを祈ろうとした。少女は考えた。けれど何も、少女には浮かばなかった。

幼少期:母親が教会で祈っている記憶
Who is her? - mother