賭場の帰り道、狼を気にしながら足早に家へと帰ろうとしていた。ダンッと何かが破裂するような音が聞こえて振り返る。暗闇の中に銃らしきものを持った男性が立っていた。よく見えないが、その姿は……知っているような人に思える。
「夜道は危ないですよ」
「……あら、ミツヤさま」
ふっと何かが頭によぎって、すぐにそれはどこかへ消えた。彼が追い払った狼の遠吠えが遠くで聞こえてから、その空間は静寂に包まれる。
「今日はだいぶ物騒なものをお持ちですわね」
「夜道は危ないですから」
「よければご休憩なさりませんか、教会はすぐそこです。大したものは、お渡しできませんけれど」
「……ではお言葉に甘えて」
*
夜の教会に訪れることはさほど珍しくないけれど、さらに闇に飲み込まれるような感覚を覚えた。ばたん、と戸が閉まる音が響いてほんの少しだけ反響した。
「どうぞそちらにおかけになってくださいませ。飲み物とタオルを持って参りますわ」
「ありがとうございます」
猟銃をそばにおいた音を背中に感じながら奥へと小走りで向かった。薄暗い教会の中に靴の音が響く。自分の分もペットボトルを手に持って彼の元へと戻った。
「ミツヤさま」
ありがとう、と受け取る彼の隣に座った。会話はない。座る場所が近かったせいか肩がほんの少し触れた。今夜はどうも、なんだか胸の奥で何かがざわつきが姿を消してくれない。触れた肩が熱い。覚えのある空気だった。
「寒いですわね」
「……ええ」
彼の瞳がこちらを捉えるのと同時に、自分の瞳が彼を捉えた。近づいたのはきっと自分なのだけれど、それでも影が重なるのは同じだった。二人の間にあったペットボトルが教会の床に落ちて、ゴロゴロとベンチの間を転がっていく。触れた唇の隙間に舌をねじ込んだのは自分で。数日前にあの女にキスをされたときのことが頭によぎったが、それはすぐにかき消された。
「……イヴさん」
「……嫌でございますか?」
彼は何も言わなかった。ほんの少し歪めた顔をごまかすようなもう一度の口づけが、行為への肯定だと受け取った。きっかけなど、なんでもよかった。しばらくはキスの音と布の擦れる音だけが教会に響く。ああ。
愛されている。
「ミツヤ、さま」
もっと愛してほしい。手を伸ばした彼のそれは生理反応を及ぼしていて、女の体に感謝した。この感覚を私は覚えている。この感情を、この触感を、私は覚えている。ゆっくりと愛撫すれば、彼の手が胸に当たった時、この邪な感情がバレないといいと思った。これはただ、今日だけの。
「……いけませんわ」
彼の手が頭の布に重なったとき、その手をそっと抑えた。見られてはいけない、という防衛本能が警告を発している。きっとこの高ぶりが……冷めてしまうのだ、という確信が。
「しかし、」
「ふふ、ミツヤさま、着ながらというのも一興でございますわ」
どうせ今日だけなのですから。長い裾をたくし上げながら、彼のズボンのジッパーを下げた。抵抗しない彼が私の服の中に手を入れる。素肌に触れた指先は、思ったよりも熱くて、けれどどこまでも冷めた温度を感じてしまって、体の中で何かが弾けていく。男らしいゴツゴツとした手の感触が、何かの生き物のように張っていく。上へ、上へ、ついにたどり着いてしまったそれが、下着をゆっくりと外した。たおやかな締め付けから解放された私のそれに指を沈ませた彼の、もう片方の腕が腰に回った。彼のそれをゆっくりと扱きながら自然と近づいた距離にもう一度唇を合わせる。
「は……んっ、ぁ」
急いていく体と手つきに、小さな吐息を漏らして彼の首に腕を回した。もっと、もっと愛して。体を求められていることだけが愛されている気分になる。彼が私の体に触れるたび、その冷たい温度が愛を伝えてくれるような気がする。
「……ん、ミ、ツヤさま」
「良い、のですか?」
その言葉の意図はわかっているつもりだった。構いませんわ、と囁くと、彼の腕がゆっくり私をベンチに横たわらせた。彼が身につけたものをしただけ降ろす間に、スカートの中の下着を脱いだ。彼が手探りに、弄ってあてがった。ゆっくりはいっていくその圧迫感に吐息と小さな声が漏れる。
「ん、は……ぁっ……っ」
これが最上の喜びだと、知っている気がした。男のものを体が飲み込んでいる間、私は最上の幸福を得る。それごと全部食べたくなってしまうような。吐き出される欲望が、私の中で広がる熱が、私を幸福の頂へと登らせてくれる。ゆっくり動き始めた彼の動きに合わせてゆるく腰を振ると、彼の顔がほんの少し変化した気がした。
視界がいい。顔の布がずれていることに気づいたのは、その時だった。慌てて戻す。いけない、見られては、いけない。きっと彼の愛がなくなってしまう。私の顔を見てしまえば、すぐに私の中に入っている愛が消えてどこか遠くへいなくなってしまう。
「は、ミツヤさま……っ」
体を引き寄せて抱きつく。これなら布がずれても彼は顔を見られない。ああ、よかった。よかった。このまま彼が果ててくれれば、私は幸福を得ることができる。
「……っそろそろ……っイヴさ……」
「アッ……んんっは……キ、て」
早くなるピストン運動に、なかをできる限り締め付けて彼からの愛を促した。ほどなくして出された熱を感じながら、彼の額に小さくキスをした。