その都市はいつもきらびやかに着飾っていた。


煌々と灯るネオンの下、肩を寄せあいながら笑い合う男女
吸い殻を幾何学に並べられたタイルの溝に踏み潰し、酒と煙草の臭いを撒き散らしながら唇を曲げた中年男性
雑踏の中でさえ周囲の存在など最初から存在しないかのような笑い声を響かせ、欠伸が出るような速さで移動する若者達
虹の彩度を極限まで上げ、その色をそのまま無造作にぶちまけたような看板の店中では攻撃的な音の洪水が辺りを横暴に侵略していた。

遠慮を知らないハイライトとクラクションが響かない日はない。常に車色で彩られた道路では、手を惜しむことなく磨かれ、光を反射した高級車をよく見る。美しい女と一目でそれと解るブランド服を着こなした男、黒服の運転手が見えたが
彼等と窓越しに目が合うことも、彼らが車から降りる事も一度としてない。

そのすぐ道路脇、建物の隅ではダンボールを下敷きに朧気な目線を漂わせ、薄汚れた灰色の、規則性など皆無な長い髭と髪を静かに揺らす老人達
ある者は知らん顔で、ある者は憐憫の眼差しで、ある者は無表情で側を通り過ぎる。

パズルのように隙間なく並べられた店やビルは我こそが一番、とでも言うようにあらゆる広告、建物、声、蛍光色を使い、存在をアピールしている。
それに誘われ、人々は靴音を主張させながら出入りを繰り返し、売買が交わされる。言葉が、思考があちこちで重なりあう。

工場の煙突から湧き出る煙、競争的な誘い声、喉奥をつんざくような香水の臭い、配管から漂う物寂しげさ、溶け込むようにひっそりと生える雑草、休む事なく働き続ける換気扇とエアコンの音。支配的な熱気、視界を奪うライト。

全てを飲み込み、吐き出した都市の一日が終わり、また始まる。

その町に各人々の居場所はないようでもあり、全てが各人々の居場所のようでもあった。


すぐ側の駅から一人の青年いや――顔立ちから幼さが垣間見える彼は少年と言っても差し支えない――は一人歩いていた。

 

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