とある事務員のマル秘業務日誌 1

私の勤務する職場は警察庁警備局警備企画課という部署である。
どんな事をする所なのかというと名前の通り警備を専門に行う部署で詳しくは分からない。仕事内容を詳しく聞いてみたけれどそこはさすが秘密主義の公安。ただの事務員は知らなくてもよいと言われた。要は企画課で働く人々が余計な仕事をせずに済むように雑用をしてくれればいい、という事だろう。

どうしてそんな所で働いているのかと言うと、警備企画化の前事務(雑用)担当者があまりの激務に耐えきれず僅か一ヶ月で退職(逃げ出した)した為。企画課専属の担当者が採用されるまで、総務部の私に白羽の矢が立ったのだ。異動の話は突然だったけれど、違う部署で働くのも良い経験になるだろうと考えて、異動の話を受けたのだった。
そんなこんなで異動したはいいが、警察庁警備局警備企画課は他の部署と違い特殊だった。
まずはその所在。警察庁内でも特に警備の厳しい区域に存在する。二重三重のセキュリティチェックにようやく慣れてきたのもつい最近。ちなみにパスワードは定期的に変わるので覚えるのがいちいち面倒だ。

「おはようございます」

室内に漂う煙草の煙に自然と眉が潜まる。これも慣れてきたとはいえ非喫煙者の私には非常にキツイ。ドアの横に無造作に置いてある空気清浄機は今日も稼働していないようだった。

「あ、おはよう。今日もよろしく!」
「おはようございます」

すれ違い様に坂本さん(40)が私の肩を軽く叩き慌ただしく出て行った。朝から事件だろうか。そんな姿を見送り自分のデスクへ向かえば、また山のように書類やファイルが積み上がっている。

「…………」

この際だから不要な物は捨ててやろう。その前にまず仕分けだなと腕捲りをして分厚いファイルに手を伸ばした時、今更ながら重要な事に気づいた。
そういえば……ここで一番偉い人は誰だろう。異動して一カ月ほど経つのにまだこの部署の責任者を見ていない。責任者代理の大久保(50)さんにしか挨拶をした覚えがない。

「西郷さん、こちらの責任者の方はどなたですか?責任者代理の大久保さんとしかお会いした事がないんですけど…」

私の隣のデスクでよく寝ている西郷さん(45)に探りを入れる。責任者が一週間も出勤しないなんておかしな話だ。大久保さんは毎日出勤しているのに。

「…ん?ああ。あの人ならいつ来るか分からないぜ。なにせ任務で忙しいからな」
「…任務?」
「詳しい事は言えないが滅多に会えないと思うぞ。たまに顔を出したかと思えば大概機嫌が悪いからな。大久保代理でさえ宥めるのが大変だしな。もし出くわした時にゃあんたも気をつけろよ」
「…へ、へぇ…そうなんですか。じゃあその方のお名前だけお伺いしてもいいですか?」
「降谷、さんだよ。うちのエースだ」
「降谷さん、ですか…ありがとうございます。あ、よろしければお茶いれましょうか?」
エースって言うくらいだから強面な人なんだろうな。髭を生やして顔に傷があって…もしかしたら金色のネックレスとかをつけてたりして。でもそういう人に限って素は笑顔の可愛いおじ様だったりするんだ、きっと。
まだ見ぬ上司に思いを馳せながらお茶を入れていたら、茶柱が二立っていたので自分で飲んでおいた。ゆっくりお茶を飲んだから西郷さんのお茶が濃い目になってしまったけど許して頂きたい。










「こんばんは。今日もお仕事ですか?」
「はい。晩御飯済ませちゃおうかと思って」

爽やかな笑顔で席へ案内してくれたのは、喫茶ポアロの店員さんの安室透さん。
このビルに住む毛利探偵の一番弟子でウェイターをしている彼はその外見からJKのみならず店を訪れる女性客に大人気だ。
褐色の肌に金髪に近い髪、それから青い瞳。初めて安室さんを見たときには思わず見とれてしまった。

「コーヒーとハムサンドでお願いします

疲れた体に爽やかスマイルはプライスレス、癒しだ。お堅い印象を持たれがちな私だってイケメンは嫌いではない。毎日毎日煙たい部屋での雑用仕事。話し相手は四十路オーバーなおじ様ばかり。たまには目の保養だってしたくなる。毎日ではないけど気が向いた日にはここに来る。晩御飯がわりにサンドイッチを頼むのだが、このサンドイッチが安室さんお手製で物凄く美味しい。たまにおかわりをしてしまうことだってある。

「お待たせしました」

程なくして注文したサンドイッチがやってきた。

「そういえば異動したって言ってましたけど、お仕事には慣れましたか?」
「ああ…はい。仕事内容としては前いた所とそんなに大差ないんですけど…」
「けど?何か問題でもあるんですか?」
「いや、新しい部署の責任者…上司にまだ一度も会った事がなくて。挨拶もまだ出来てないので気になっていて…」

安室さんがこんなに話しかけてくるのは珍しい。いつもならお客さんとは当たり障りない会話を(炎上予防)して適度な距離を保っているのに。

「そのうち会えるんじゃないですか。…ちなみにその方はどんな人だと予想しているんです?」
「そうですねぇ……多分強面な人なんだろうなと。髭が生えていて顔に傷があって…もしかしたら金色のネックレスとかをつけてたりして。でもそういう人に限って素は笑顔の可愛いおじ様だったりして、とか?あくまで予想ですけどね」
「………」
「安室さん?」
「あ…いえ。大変だと思いますがお仕事頑張ってくださいね」

安室さんの反応を不思議に思ったけれど深く考えないことにした。イケメンにだって悩みの一つはあるだろうし。



「いただきます」

後日、自分の発言が首を締めることになろうとは露ほどもにも思わず、絶品のアムサンドに舌包みをうつのだった。