ホームルームの終わりを告げるチャイムが、放課後のざわめきに溶けていく。入学式から早一週間。高校生活への期待と不安から来る、新学期特有の空気感は落ち着きつつあった。クラスの人間関係はだいぶ固まってきており、すでにグループが出来上がっているところもある。かくいう私も、席の近い子数人と友好関係を築いている真っ最中で、ひとまずぼっちは避けられそうかなというところだ。
「名前ちゃん、今日もボーダー?」
「うん」
「そっか、頑張ってね!」
 放課後はボーダーに用事があるため、担任がホームルームを終わらせると同時に立ち上がる。帰り際にクラスメイトに声をかけられて、反応を返しつつ教室を出た。
 私がボーダーに所属しているということは、安定した高校生活を送るにあたって早い段階でカミングアウトしたことだ。うちの学校はボーダー提携校であるため、在籍する隊員が多い。それゆえにボーダー隊員は特別珍しいというものでもなく、比較的すんなりと受け入れてもらえた。学校によっては1学年に1人いるかいないかだったりするので、そういう場合だと目立ち方が段違いらしい。
 ボーダーのB級以上の隊員は防衛任務を課されるため、必然的に授業の欠席は多いし、その分勉強に遅れが生じるのは言うまでもなく明らかだ。長期休みに補講を設置するなど学校側も配慮はしてくれるけど、それだと定期テストには間に合わないわけで。要するに何が言いたいかというと、私が早々にカミングアウトしたのは、欠席した授業のカバーをスムーズに行うためである。本来ならばこういったことはクラスのボーダー隊員同士で助け合うのが一般的なのだけれど、私にはそれができない事情があった。なぜなら。
 クラスで唯一のボーダー隊員が、よりによって女の子が苦手な辻くんだからである。