報告


「おい、起きろ」

体を揺さぶられながら呼ばれ、目を開けるとこちらを見下ろしている相澤先生がいた。

「おはようございます」
「おはよう。ついでにいえばもう放課後だ」
「……なんでいるんですか?」
「あとで話を聞くために来いったのにお前が来ないからだろうが」

先生の言葉に合点がついてゆっくりと起き上がる。

「そんなこと言ったって、リカバリーガールが休んでろって言ってたから休んでいただけですよ」
「だからって眠りすぎだ。……六時間目が終わってもう一時間以上たっているんだが?」

ああ。それは確かに寝過ぎだ。

「すみません。すっかり忘れていました」

ベッドから起き上がりながら言うと、先生はため息をついてカーテンの向こう側に行った。

「あれ?リカバリーガールは?」
「婆さんなら所用だ。それより移動するぞ」






先生の後について歩いていると、一つの部屋につき慣れたように鍵を開けて中には入る。

「………」
「どうした」
「いえ、なんだか勝手知ったる我が家のように入ったので」
「まあ俺の準備室だからな」
「教師一人ずつに準備室をくれるんですか?さすが雄英ですね」
「………とりあえず座れ」


先生と机をはさんだ向かい側に腰を下ろすと、さっきまでのきだるげな雰囲気はどこかにいき、鋭い視線をこちらに寄越す。


「で、昼間のことで詳しいことを聞かせてもらおうか」
「聞かせるもなにも。話せるようなことはほとんどありませんよ?」
「なんかあんだろ。その腕のこととかな」

話すこと話すこと。

「ああ……確か一人の個性でこうなったんですよ。私の結界も崩されていたので……なんでしょ。触れたら崩れる個性?なんですかね」
「触れたら崩れる……か」
「そういえば門が崩れていたそうですがそいつですか?」
「確証はない。だがそうだろうな」
「あとはもう一人がなんかもやもや〜としてて、その靄に包まれたと思ったら屋上にいたはずが空中に投げ出されていました」
「そうか」
「あとは……目的のものは手にいれた、と言ってました。
役に立ちそうなのはこれぐらいです」
「そうか……分かった。ありがとな」
「いえいえ」
「腕はもういいのか?」
「リカバリーガールが治してくれましたので」
「そうか……」


そこで会話は途切れるが、どうしたらいいのだろうか。帰っていいのか?


「狭間」

そんなことを思っていたら先生に呼ばれたので下がっていた顔をあげる。

「………スペースムーヴを知っているか?」

スペースムーヴというのは私の父親のヒーロー名だ。
ヴィランとの戦いで殉職したが、それも私が3か4歳の頃のことだ。
だから今更そんな名前を聞いたことにも先生が知っていたことにも驚いて返答に間が空いてしまった。

「狭間……?」
「いえ、父親です、私の」
「そうか」
「よく覚えていましたね。もう十年ぐらい前にいなくなったヒーローなのに」
「あの人には少し世話になったからな」
「何故今?」
「いや、……」

そこからまた訪れる沈黙。

え、この人なにがしたいの?帰っていいのか?てか帰りたい。


「今日は助かった。ありがと」
「いえ、お役にたてたなら幸いです」
「遅くなっちまったな……すまん」
「大丈夫です。まだ明るいですし元々私が寝坊したせいですしね」
「そうか。気をつけて帰れよ」
「はい。さようなら」


先生と別れて荷物を取りに行くために廊下を歩く。
もう少しで最終下校時間なのだからか人はほとんどいない。

軽く左腕を回すが特に何もないので一先ず安心する。



今日は災難だったけど、とりあえず早く帰ろう。
久しぶりに母さん以外から父さんの名前を聞いたので妙な感じだ。


まあ父さんが死んだのが幼いときだったし、ヒーローの仕事であまり会ってもいなかったからたいした思いはないけど。
それでもやっぱり私の父親だし。


「はぁぁぁ……疲れた」


とにかく早く帰ろう。


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