雄英


まだ日もでていない時間帯。
目覚ましも何もなく体内時計のみで目を覚ました月華は、寝間着から着替えると日課のジョギングに出掛けた。

お気に入りの音楽を聴きながら、ただ走り続ける。
今朝見た母親の夢が脳裏をちらついていた。それと同時にズキズキと痛む頭。

(久しぶりに昔の夢も見たな)

いつもならば狂ったようにヒーローに固執する母親の夢だけ。だが今日は昔の、まだ優しかった頃の母親も出てきていた。
その原因は分かっている。








走り終え、誰もいない家に帰る。

身支度を整えると、鏡の前に立ち最終チェック。

その身を包んでいるのは、慣れ親しんだ中学の制服ではなく、今日から着る真新しいもの。
雄英高校の制服だ。

この服を着るのに、大した手間はかからなかった。
試験は意外にも簡単なもので、けれども、月華にとってこの服を着ることは大きな意味を持つ。

ズキズキと、頭が痛む。


月華は額を押さえながらじっとその姿を見ていたが、特に表情が変わることなく鞄を手に取り玄関を出る。




「いってきます」


扉が閉まる音か、やけに重々しく響いた。



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