初邂逅


次の日。
朝のHRでは昨日の戦闘訓練のことで爆豪と緑谷が相澤先生から何やら小言をいただいていた。そのとき一瞬だけこちらを見た気もするけど、気のせいだと思う。

「さて、急で悪いが今日は君らに。
学級委員長を決めてもらう」

「「学校っぽいこときたぁぁっぁぁ!!」」

突然言い出した先生にまた何か臨時テストなのかと身構えたが、次の瞬間の言葉に一気に騒ぎ出す。

うるさいし学級委員長なんて面倒なもの興味もないから、腕を枕に机に突っ伏していると、瀬呂に肩をたたかれる。

「狭間、起きろよ」
「・・・・うるさいな。寝てないよ」
「なんか機嫌悪くねぇか!?」

どうやら多数決で決めることになったらしい。

「・・・だ、れ、に、し、よ、う、か、な、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り・・・よし。飯田君にしよう」
「まさかの方法で決めたな・・」

クラスメイトの名前が書かれた紙をだして決めると、切島になにやら呆れられた。けれどとにかく早いところ終わってほしいので決めた名前を書いて出しに行く。
席に戻る途中、なにやら視線を感じそちらのほうをみると轟がこちらを見ていた。

「・・・・」

めんどくさそうな雰囲気がバンバンに感じられたので、何も言わず何も見なかったことにして黙って席に着く。






投票の結果、委員長は緑谷に決まった。




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お昼休み。
人の多いところは苦手なので、屋上に行って持参した昼食を食べる。

ウウーーーーー!!


そのとき、警報が鳴り響きあたりは一気に混乱した。

最高峰の雄英だとしても、しょせんは学生。プロヒーローのような迅速な行動などとれるわけもなくとにかく避難しようと非常口に押しよる。


「・・・あ」


どうしようかな。と思って立ち上がると、ちょうどフェンスのところから押し寄せてくる報道陣がみえた。
相澤先生とプレゼントマイクはその対処に追われていた。

「なんだ・・・」

一気に興味が薄れ、食事の続きをしようと振り向いた瞬間。
背筋にゾクリとしたものが走りその場から離れる。

じっとさっきまでいたところを見ると、黒い靄のようなものが現れた。

「あれ・・・?なんでこんなところに生徒がいんの?」

そこから現れたのは、手のオブジェを顔につけた見るからに怪しげな男。

「マスコミ、なわけないよね・・」

男から発せられる雰囲気は、まごうことなきヴィランだとわかるもので、私は見えないように体の陰で指を組み、いつでも個性を使えるようにする。


「落ち着いてください。何もしなければ我々も手出しは致しません」

そのとき、背後からもう一人の声が聞こえた。

「っ!?」

瞬時にそこから飛びのき自分の周りに結界を張るが、まったく気配を感じられなかったというその事実にさきから心臓がうるさい。

「ほぅ・・その個性、なかなか珍しいですね」
「どうでもいいよ。見られたんなら消さなきゃ」
「しかし今注目を浴びればやりにくくなりますが?」
「知るか。そいつヒーロー科だろ?見るだけでイライラする」

瞬間。男が目の前に迫ってきていた。

右手をこちらに突き出し、結界に触れる。すると男が触れた場所からぼろぼろに崩れ落ちた。

「っ!・・まじかよ」

ひとまず男の腹に結界をぶつけて距離をとる。



触れるだけで崩れる個性か?だとしたら相性は最悪。
どうする?一回退いて誰か先生を呼びに行ったほうがいいんじゃないか?


「ほら。ヒーロー志望なんだろ?逃げてないで戦えよ」

どうするべきか考えていると、男が挑発するようにせせら笑う。

明らかな挑発。それでも、その一言で冷水を浴びせられたように一気に冷静になれた。



今先生たちを呼び行っても、おそらくその間にこいつらはいなくなる。ならばこの場で相手をしたほうがいいんじゃないか?
そうだ。ヒーロー。私はそれを目指している。
強くて立派なヒーローになる。そのためには、こんなところで逃げるわけにはいかない。

目を細め。組んでいた指に力を込めた。


「・・・・結!」

自身の周りにまた結界を一枚はる。

「またそれ?意味ないよ・・っ!?」

男はさっきと同じようにそれを崩そうとしたが、先ほどのよりもさらに強度を上げたそれは容易には崩れない。

「結!」

一瞬の戸惑いを見逃さず男の手足に結界を張る。

「手足の一二本はいいだろ・・・滅!」

掛け声とともに腕を振り下ろすと、結界内のものが滅される。






はずだった。


「危ない危ない。まったく。油断しないでくださいよ」


後ろから聞こえてきた男の声に、とっさに飛びずさるが一歩遅い。
その靄の中から出てきた腕に左腕を握られる。

「ぐぅ・・・!!」

そのとたん激痛が走りぼろぼろに崩れ始めた。

「っ・・!結!!」

靄の中から出かけてきたさっきの男の体をもう一度結界をぶつけ、何とか腕から逃れて距離をとるが激痛はまったくひかない。


「あなたの個性は強力そうですね。しかし残念。今はお相手している時間がないので」
「目当てのものは奪えたのか?」
「ええ。あなたが遊んでいる間にね」

黒い靄がいないと思ったら、何かしていたようで私はまんまとこいつらの思惑通りに動いていたわけだ。

「と、いうわけで今日はこれで失礼します」
「また近いうちに会えるだろうから。そのときに壊してやるよ」
「っ!待て・・!!」

その言葉と一緒に男は靄の中に包まれ、私の視界も包まれたと思った次の瞬間には空中にいた。

「はぁ!?・・くっそが!」

地面に柔らかい結界を張り激突は免れるが、すぐに屋上のほうを見てもすでにあいつらはいなかった。


「・・・・・」




「?おい狭間、そこでなにをやって狭間!?」
「はぁ!?おいお前大丈夫かよ!?」

じっと見ていると、マスコミを追い払えた相澤先生とプレゼントマイクがそばを通りかかり見咎められる。
どうやら私の崩れた腕を見て声を上げたようだ。

「いえ・・さっきヴィランとおぼしき人物がいたので」
「一人で戦ったのか!?」
「先生方を呼ぼうと思ったのですがそんな暇もなく交戦になりました」

先生が持っていたであろうハンカチで腕を抑えられてギロリとにらまれる。

「とにかくさっさとばあさんのところに行け。そんで後で詳しい話を聞かせろ」
「・・・・はい」

さっきからずきずきと腕が痛かったのでお言葉に甘えて保健室に行くことにした。







あの後、保健室でリカバリーガールにしこたま怒られた。
あの傷を治すにはそれなりの体力が必要で、幸い私の体力ならば一回の治癒で治せるがそれでも疲労が半端なかったので午後の授業は休むことになった。



放課後には相澤先生のところに行くことになっている。
さっき小耳に挟んだんだけど、なんと門がぼろぼろに崩れ落ちていたらしい。それで雄英バリアーを突破したのは報道陣ではないだろうという話だ。
おそらく屋上であったあの手の男だろう。


「はぁ・・・」


面倒くさい予感がとてつもなく感じるが、今はとにかく休もうと面倒なことは一回忘れてベッドにもぐりこんだ。

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